言葉の森新聞2017年1月3週号 通算第1451号
文責 中根克明(森川林)

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■■子供がいじめにあったらどうするか――親の立場で

 今回の話は、一般論として参考になる話ではありません。
 そもそも、いじめのような理不尽なことに対しては、模範的な対応というものはありません。個人の生き方として対応していくことが基本です。
 ですから、自分が親だったらどうするか、どうしたかということを中心にした話になります。
 ところで、私がいつも疑問に思うのは、いじめにあった子供の親が、ただ我慢をするだけだったり、いじめる相手の善意に期待したり、時間が解決してくれると思ったり、誰かが助けてくれると思ったりすることが多いということです。
 確かに、昔は、子供どうしで助け合ったり、上級生が助けてくれたりということもありました。そして、いずれそういう助け合いのできる社会は再び来るでしょうが、今は誰かの助けを期待できるような時代ではないと考えておくことが基本です。
 私が大学生のときに読んで感銘を受けた本に、「葉隠」があります。この本の内容は、引退した元武士の老人への聞き書きですから、人生に対する奥深い洞察のある言葉が随所に見られます。
 この本の中に、「我が身にかかわる重大事は、しゃにむにやってのけなければ解決しない」というような言葉がありました。
 自分が当事者になったことは、うまいやり方を工夫しようなどというようなことを考えてはならないということです。そういう一歩遅れる気持ちが、最も武士道に合わないものだというのです。
 いじめに対しても同様です。自分が少しでもいじめられたら、そのときの対応は、戦うことです。
 この戦うことの中には、話し合うことも含みます。つまり、口で戦うということです。
 これは、その子が将来大人になったときも同じです。社会に出ても理不尽なことに遭遇することは多いでしょう。そのときの原則は戦うことです。
 これは、個人と個人の問題だけでなく、国と国との問題でも同じです。
 勝てるかどうかとか、うまく行くかどうかという配慮は、二の次、三の次で、いじめられたら何しろ立ち向かうことが原則なのです。
 こういう人間の生き方の根本に関わるようなことを、子供が自分で考え出すことはできません。
 学校の先生が教えてくれるわけではありません。
 本に書いてあるわけでもありません。
 ただ親だけが教えられることなのです。
 そして、もし、戦うことが無理だと判断した場合は、いつかの捲土重来を期して逃げることです。いじめのような卑劣なことをする人間は、数を頼んだり、武器を持ったりすることもあるからです。
 逃げるというのは、学校の場合は、学校に行かないこと、転校することなどです。

 こういう判断も、もちろん、子供が自分の力ですることはできません。親が即座に判断して実行していかなければなりません。
 私の子供も、小学校低学年のとき、体の大きい子や上級生に、いじめられたりいじめられそうになったりしたことがありました。
 それを知ったとき、私は即座にその子と戦わせたり、その子の自宅に直接話に行かせたりしました。
 そして、そのあと、そのいじめた子たちとは、普通の友達のような関係になったのです。
 しかし、これがもしそのようにうまい結果にならなかったとしてもいいのです。
 いざというときに戦うということは、人間の生き方として当然のことだからです。
 普通の日本人は、争い事は好きではありません。自分の周囲を見ても、ほとんどが心優しい人です。
 しかし、世の中には、そうでない人もいます。
 だから、不正なことがあり、自分がその当事者であった場合は、即座に戦うことです。
 そして、もし相手が悪いことをしなくなれば、そのときは許してやればいいのです。
 以上が、いじめに対する個人的な対応の仕方です。
 いじめに対する社会的な対応は、もっと根本的に考える必要ががあります。
 それは、弱い者いじめをするような人間を育てないということです。そして、それは、教育の力で十分に可能なことだと思います。


コメント
・ 人間の生き方の基本は、強さと優しさを同居させることです。争いはなければないにこしたことはありませんが、巻き込まれたら元気に戦うだけです。元気にって(笑)。
・ あまり楽しそうな話ではありませんが、世の中には困っている人もいると思うので書きました。
 しかし、いじめのような問題は、基本的には社会全体で対応するものです。
 その参考になるのは、会津藩の「什(じゅう)の掟」のように、「弱い者をいぢめてはなりませぬ」という基本を子供のころから教えておくことです。


■■理系か文系か
 以前、保護者の方から、文系か理系かどちらにするのがよいかと尋ねられたことがあります。私の考えは、迷ったら理系の選択を原則にするというものです。
 なぜなら、科学の分野をいくつかに分ける考えがありますが、人文科学と社会科学の多くは、科学というよりも仮説であり、ものの見方や考え方、人生観や世界観というようなものであることが多いからです。
 これに対して、自然科学は、立証できる客観的な現実を基本としています。だから、自然科学、つまり理系的なものが、科学の基本になります。
 比喩的に考えると、文系を人間の頭の役割とすれば、理系は人間の手足です。
 世の中にある何かを動かそうとするとき、何のためにどう動かすかを考えるのは頭ですが、それを実際に動かすのは手足です。そして動かすときに、理系の知識と技能が役に立ちます。
 ところで、ここで大きな問題になるのは、人が文系を選ぶ理由です。
 高校生が文系を選ぶ理由は、「数学が苦手だから」というということが多いのです。
 同じく、人が理系を選ぶ理由の中に、「国語のような感覚的な世界が苦手だから」というものもあります。
 どちらも、苦手だから、自分の苦手でない方を選ぶということが選択の基準になっているのです。
 では、なぜ数学が苦手になるかというと、それは点数の差をつけることを目的とした受験数学のせいです。小学校高学年のころから、不必要に難しい問題をやらされて算数数学が苦手になってしまう子が多いのです。
 同じく、なぜ国語が苦手にになるというと、これも点数の差をつけることを目的とした受験国語のせいです。ただし、国語の場合は、苦手の理由がわかれば克服は比較的容易です。
 数学が苦手だという意識があると、一生数学的なものを避けるようになります。それは、その人にとって大きな損失です。
 数学や理科が苦手だということを、人間の頭と手足の比喩で言うと、頭はよいが手足が不自由だということになります。
 大きなビジネスの世界では、文系の経営者がビジョンを考え、それを理系の技術者が技術として具体化するというような分業も可能です。
 しかし、小さなビジネスの世界や個人レベルの世界では、文系の頭も、理系の手足も、併せ持っていなければなりません。
 特に、これからは個人が活躍する時代になりますから、文系も理系も両方できる自律した能力を育てておくことが必要になるのです。
 ところで、理系が苦手にならないということは基本ですが、反対に、理系の手足だけが優れているということもまた問題があります。
 以前、「理系貧乏」という言葉が使われたことがありますが、理系の得意な人は、世の中全体のビジョンを考える力がないと、目先の技術的なことだけに目を奪われてしまうということもあるのです。
 理系の本質は、数学的、科学的にものごとを考えることのできる力です。
 文系の本質は、ものごとをより深く、概念的、構造的に考える力です。だから、文系の学問は、国語の中でも考える文章を読み取り、考える文章を書き上げる力になります。
 学問には、この両方が必要であり、更に社会生活を送るにあたっては、人間関係力や実行力も必要になってきます。
 子供の教育を考える場合、こういう大きい視野で勉強の範囲を見る必要があります。
 だから、小中学生の間は、文系的には、難しい文章を読む力、難しい文章を書く力をつけること、理系的には、算数数学に苦手意識をもたないようにしておくこと、この二つが基本になります。
 このように、理系も文系も両方必要なのですが、今の学校教育の中では、数学が苦手だから文系を選ぶという考え方が根強いので、できるだけ最初から理系志向でやっていくようにするといいのです。
 実は、言葉の森の高校生には、人数を集計したわけではありませんが、理系の人がかなりいます。大学の理学部や工学部に進む人が多いのです。
 こういう高校生は、受験に小論文を使うわけではありません。小中学生の間、言葉の森でずっと作文を書いていて、数学が得意だから高校生になって理系を選んだが、作文の方も引き続き勉強しているということです。
 それは、言葉の森の作文指導が、感覚的なものではなく、どちらかと言えば、理系的な作文指導になっているからだとも思います。
 今後、寺子屋オンエアやオンエア講座などで理数系の力もカバーし、更に難しい長文を読み高度な作文を書くという指導を行い、理系も文系も両方できる子供たちを育てていきたいと思っています。


コメント
・ 理系か文系かという選択の場合、本当はどちらも大事です。
 しかし、今は、数学が苦手だから文系にするという人が多いので、そうならないように理系に重点を置いた勉強をしていくといいのです。
 そして、理系だけに特化しないように、幅広く難しい本を読み文章を書くという文系の勉強のやっていくといいのです。
 あ、それから、勉強以外の趣味や、遊びや、友達付き合いも(笑)。
・ もともと人間の能力には大差がありません。しかし、子供は自分が得意だと思ったものを伸ばし、苦手だと思ったものを避けるようになります。
 だから、親としては、どの教科も苦手と思わせないように勉強をカバーしていくといいのです。
 しかし、それは、どの教科も得意にするということではありません。そこまでやろうとすると、かえって勉強以外のところで問題が出てくるからです。
 よくできる子の場合は、特に、このやらせすぎないことに気をつけておく必要があります。
 「やらせすぎの心配をするぐらいになってほしい」という声も聞こえてきそうですが。


■■読書については、より多くより高度に、を念頭に
 読書力は、子供の学力を形成します。この学力の土台の上に成績があります。
 学力の土台を作るのは、毎日の読書と対話です。
 成績を決めるのは、毎日の勉強の量と方法です。
 学力の土台の上に成績がありますが、低学年のうちは成績は勉強だけで上昇します。それは、まだ学力そのものが小さいからです。
 しかし、高学年になると、成績は勉強だけでは上がりません。学力の土台というものが重要になってくるからです。
 たまに、「読書は学校でしているから、家ではしない」という子がいます。
 読書は、毎日の生活の中でしていくことが大事なので、読書の場は基本的に家庭です。
 家庭で読書をしない子が増えてきたので、それを補うために学校で読書の時間を設けるようになったのです。
 学校でするから、家ではしなくていいというのではありません。
 しかし、中には、家庭で毎日本を読むということが習慣になっていない子もいます。
 そこで、毎日の読書のハードルを下げるために、言葉の森では、「毎日10ページ以上」「自分の好きな本を」ということを読書の基本にしています。
 このようにすると、読書が苦手な子や、読書の時間があまり取れない子は、ぴったり10ページで読書を打ち切ります。しかも、易しい楽な本しか読みません。
 ここで、親は、「もっとたくさん読んだら」とか、「もっと難しい本も読んだら」と言ってはいけないのです。そういうことを要求すると、毎日読むことが負担になり、結局長続きしなくなるからです。
 しかし、この状態を子供が続けることは仕方ないとしても、そして、親はそれを一応手放しで認めてあげることが必要であるとしても、親が心からこの水準で満足していいというのではありません。
 親は常に、その子が、10ページよりももっとたくさん読むこと、易しいだけの本よりももっと高度な本を読むことを、将来の読書の方向として考えておく必要があるのです。
 そのために、必要なことは、第一に、読書の時間を工夫することです。10ページでいいから勉強の前にちょっと読ませようというのでは、読書量は増えません。読書は、勉強などの必要なことがすべて終わって、あとは遊んでも寝てもいいような次の時間に余裕のある時間帯で読ませるようにしておく必要があります。
 第二は、子供の興味や関心を見つけることです。本人が関心を持っている分野であれば、子供は難しい本にも手を出そうとします。そのためには、図書館などを利用して、いろいろな本を用意しておくことです。最近、「○年生の読みもの」などというタイトルで有名な短編がコンパクトにまとまっている本もありますが、そういう教科書的な本は、子供が熱中して読むということがあまりありません。やはり、親がその子のことを考えて本を探してくることが大事なのです。
 第三は、子供の読書力を見きわめることです。たとえ興味のある分野の本であっても、子供の読書力以上のものを与えると、やはり読み続けることは難しくなります。そういう本の場合は、ときどきは親が読み聞かせをしてあげることも必要になります。
 第四は、複数の本を並行して読むようにすることです。いつも1冊だけ読むという読書スタイルだと、興味はあるが難しい本や、易しいが興味のない本などにぶつかったときに、そこで読書が止まってしまうことがあります。いくつかのバイパスがあれば、読書の習慣をずっと継続することができるのです。
 こういう、より多く、より高度にという読書生活ができるように、言葉の森では、小学校1年生から3年生の生徒を対象にした読書実験クラブというものを行っています。これは、オンライン講座なので、時間さえあればどこからでも参加できます。



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