【3】花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関(一〇)
わたの原八十島かけて漕ぎいでぬと人には告げよあまの釣舟
あまつ風雲のかよひ路吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ
【4】つくばねの峰より落つるみなの川恋ぞ積りて淵となりぬる
みちのくの忍ぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに
君がため春の野にいでて若菜摘むわがころも手に雪は降りつつ
立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かばいま帰り来む
【5】ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは
すみの江の岸による波よるさへや夢のかよひ路人目よくらむ
なにはがた短きあしのふしのまもあはでこの世をすぐしてよとや
わびぬれば今はた同じなにはなるみをつくしてもあはむとぞ思ふ(二〇)
【6】今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ちいでつるかな
吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐と言ふらむ
月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど
このたびはぬさも取りあへずたむけ山もみぢのにしき神のまにまに