【1】たれをかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに
人はいさ心も知らずふる里は花ぞ昔の香に匂ひける
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ
白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける
【2】忘らるる身をば思はずちかひてし人の命の惜しくもあるかな
浅茅生の小野のしの原忍ぶれどあまりてなどか人の恋しき
忍ぶれど色にいでにけりわが恋はものや恩ふと人の問ふまで(四〇)
恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか
【3】ちぎりきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは
あひ見ての後の心にくらぶれば昔はものを思はざりけり
あふことの絶えてしなくばなかなかに人をも身をも恨みざらまし
あはれとも言ふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな