【4】ゆらのとを渡る舟人かぢを絶え行くへも知らぬ恋の道かな
八重むぐら茂れるやどの寂しきに人こそ見えね秋は来にけり
風をいたみ岩打つ波のおのれのみくだけてものを思ふ頃かな
み垣もり衛士のたく火の夜はもえ昼は消えつつものをこそ思へ
【5】君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな(五〇)
かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじなもゆる思ひを
明けぬれば暮るるものとは知りながらなほ恨めしき朝ぼらけかな
歎きつつひとりぬる夜の明くるまはいかに久しきものとかは知る
【6】忘れじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな
滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびのあふこともがな
めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲隠れにし夜はの月かな