【1】春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ
心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜はの月かな
嵐吹くみむろの山のもみぢ葉は竜田の川のにしきなりけり
寂しさにやどを立ちいでてながむればいづくも同じ秋の夕暮(七〇)
【2】夕されば門田の稲葉おとづれてあしのまろ屋に秋風ぞ吹く
音に聞くたかしの浜のあだ波はかけじや袖の濡れもこそすれ
高砂のをのへの桜咲きにけりと山のかすみ立たずもあらなむ
うかりける人を初瀬の山おろしよ激しかれとは祈らぬものを
【3】ちぎりおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり
わたの原漕ぎいでて見ればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波
瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
淡路島かよふ千鳥の鳴く声にいく夜寝覚めぬ須磨の関もり