【4】秋風にたなびく雲の絶え間よりもれいづる月の影のさやけさ
長からむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ(八〇)
ほととぎす鳴きつるかたをながむればただ有明の月ぞ残れる
思ひわびさても命はあるものをうきにたへぬは涙なりけり
【5】世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
長らへばまたこの頃やしのばれむうしと見し世ぞ今は恋しき
夜もすがらもの思ふ頃は明けやらでねやのひまさへつれなかりけり
歎けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな
【6】むらさめの露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋の夕暮
なには江のあしのかり寝のひとよゆゑ身をつくしてや恋ひわたるべき
玉の緒よ絶えなば絶えね長らへば忍ぶることの弱りもぞする
見せばやな雄島のあまの袖だにも濡れにぞ濡れし色は変らず(九〇)