【7】きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろにころもかた敷きひとりかも寝む
わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾くまもなし
世の中は常にもがもななぎさ漕ぐあまのを舟の綱手かなしも
み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒くころも打つなり
【8】おほけなくうき世の民におほふかなわが立つそまに墨染の袖
花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものはわが身なりけり
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎにやくやもしほの身もこがれつつ
【9】風そよぐならの小川の夕暮はみそぎぞ夏のしるしなりける
人も惜し人も恨めしあぢきなく世を思ふゆゑにもの思ふ身は
ももしきや古き軒ばの忍ぶにもなほあまりある昔なりけり(一〇〇)