【7】其より入り幸でまして、走水の海を渡りたまひし時、其の渡の神浪を興して、船を廻らして得進み渡りたまはざりき。爾に其の后、名は弟橘比賣命白したまひしく、【8】「妾、御子に易りて海の中に入らむ。御子は遣はさえし政を遂げて覆奏したまふべし」とまをして、海に入りたまはむとする時に、菅疊八重・皮疊八重・絹疊八重を波の上に敷きて、其の上に下り坐しき。【9】是に其の暴浪自ら伏ぎて、御船得進みき。
爾に其の后歌曰ひまひしく、
さねさし 相武の小野に 燃ゆる火の
火中に立ちて 問ひし君はも
とうたひたまひき。