【7】 我三十を越えて跡をおもひみるに、兵法至極してかつにはあらず。おのづから道の器用有りて天理をはなれざる故か、又は他流の兵法不足なる所にや。【8】其後なおもふかき道理を得んと朝鍛夕錬してみれば、おのずから兵法の道にあふ事、我五十歳の比也。其より以来は尋ね入るべき道なくして光陰を送る。【9】兵法の利にまかせて諸芸諸能の道となせば万事において我に師匠なし。今此書を作るといへども、仏法儒道の古語をもからず、軍記軍法の古きことをももちひず、此一流の見たて実の心を顕す事、天道と観世音を鏡として十月十日の夜寅の一てんに筆をとって書初むるもの也。