【1】秘する花を知ること。秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず、となり。この分け目を知ること、肝要の花なり。そもそも、一切の事、諸道芸において、その家々に秘事と申すは、秘するによりて大用あるがゆゑなり。しかれば、秘事といふことをあらはせば、させることにてもなきものなり。【2】これを、「させることにてもなし」と言ふ人は、いまだ秘事といふことの大用を知らぬがゆゑなり。まづ、この花の口伝におきても、「ただめづらしきが花ぞ」と皆人知るならば、「さてはめづらしきことあるべし」と思ひまうけたらむ見物衆の前にては、たとひめづらしきことをするとも、見手の心にめづらしき感はあるべからず。【3】見る人のため花ぞとも知らでこそ、為手の花にはなるべけれ。されば、見る人は、ただ思ひいのほかにおもしろき上手じょうずとばかり見みて、これは花はなぞとも知らし ぬが、為し手ての花はななり。さるほどに、人ひとの心こころに思おもひいも寄らよ ぬ感かんを催すもよお 手だてて 、これ花はななり。