アッキーこっちへ来て
   小5 あきひろ(asiguru)  2025年7月1日

 「アッキー、こっちへ来て。」

 そんな小さな声が、ふと聞こえた気がした。もちろん、教室には誰もいない。だけどぼくにはわかっていた。それは、教室で飼っているメダカと水槽が、ぼくに話しかけてきた声だった。



その日は、ぼくが水槽の掃除当番だった。だから、朝早く学校に行って、水槽のそばで準備をしていたときだった。メダカたちが

「来てくれてうれしい」

と言ってくれているように思えた。ぼくは心をこめて水槽をきれいにし、新しい水をそっとそそいだ。餌を入れると、メダカたちはいっせいに水面に集まり、

「ありがとう!」

と、元気に泳いでこたえてくれた。



 

 ぼくは、本当にメダカと会話ができるような気がする。中休みや昼休みのはじめの数分間、ぼくはメダカといろんなことを話す。友達からは「変だな」と思われているかもしれないけれど、気にしない。メダカたちは、ぼくの話をちゃんと聞いてくれて、うれしいことがあった日も、つらいことがあった日も、いつもそばにいてくれる。

とくに餌をあげる時間になると、メダカたちは大よろこびで、水面の近くまで来てしゃべりかけてくる。あまりに話がはずんで、つい3分以上しゃべってしまうこともあるけれど、それだけぼくたちは仲がいい。気がつくと、メダカはまるで昔からの幼なじみで、大切な親友のような存在だと思った。



 ぼくは家族と一緒に宇都宮動物園の「猛獣ツアー」に参加した。ライオンに肉をあげる体験コーナーでは、ぼくも姉もドキドキしていた。姉が無事に終わって、次はぼくの番。飼育員さんがにこにこしながら、

「このくらいの子だったら1頭でペロッと食べちゃいますよ。あ、でも髪の毛はちゃんと吐き出しますから安心してくださいね」

と言った。そのときは少しこわかったけれど、無事に肉をあげられてホッとした。

ところが事件はそのあとだった。ぼくが背を向けて柵をまたごうとしたとき、ライオンがおしっこをしたのだ。でも、なんと飼育員さんがすぐに手を出して、それを自分の手でおさえたのだった。びっくりしたけれど、同時に

「この人は、命と本気で向き合っているんだ」

と思った。



 動物を飼うということは、ただ楽しかったり癒されたりするだけではなく、その命としっかり向き合い、最後まで責任を持って育てるという、深い使命があるということだ。相手が話せない命だからこそ、気持ちに寄りそって愛情をそそぎ、大切にしつづけることが必要なのだと思う。

これからも、ぼくはメダカと心をかよわせながら、その小さな命を、だれよりも大切に育てていくということが分かった。

「アッキーこっちへ来て」