ゼネラリストの重要さ
   社 らたよ(ratayo)  2025年7月1日

 これまでの日本社会では、それぞれの分野におけるスペシャリストを育成することに主眼が置かれてきた。その結果として、知識は豊富だが他分野への関心や理解が乏しい人が増加している。このままでは、広い視野を持って複雑な社会課題を統合的に捉えるゼネラリストが育たず、多様化する現代社会のニーズに対応できなくなることが大きな問題である。

 第一の原因は、現代の日本社会に根強く残る縦割り構造にある。行政や企業、教育制度のあらゆる場面で分野や部門が固定化され、それぞれが閉鎖的に機能しているため、横断的な視点を持つことが育ちにくい環境が生まれている。教育現場でも、大学入試制度は依然として教科ごとの知識量を問うものが主流であり、高校生の段階から文系か理系かに分断され、互いの分野を学び合う機会が失われている。また、社会に出てからも、多くの職場で専門外のことに口を出すべきではないという暗黙のルールがあり、視野を広げようとする意欲が抑制されやすい。医療の現場を例にとれば、臓器ごとの専門医は高度な医療を提供する一方で、患者の複数の症状を統合的に診ることができないケースも見られる。たとえば、高齢者が抱える複数の慢性疾患や精神的問題を、単一の診療科だけで適切に評価・治療することは困難であるにもかかわらず、専門性が壁となり、必要な連携がなされない場合がある。つまり、医療という命に直結する現場でさえ、専門性の偏りがもたらす弊害が明らかになっているのである。

 こうした現状に対しては、まず評価の多様化が必要である。学歴や資格といった形式的な指標だけでなく、人間性、共感力、柔軟性といった非認知的能力を重視する社会的な土壌を整えるべきだ。就職や昇進においても、一つのことを極めた人材だけでなく、異なる分野をつなぐことができる人材を正当に評価する基準を導入する必要がある。また、教育の場においても、探究型学習やPBLを通じて、複数の分野を横断的に学び、視野を広げる機会を提供することが重要である。さらに、学際的な人材を育てるためには、異なる分野の人々が協力して価値を生み出す場の創出が不可欠だ。近年、医療と工学、情報技術を融合した医工連携の分野では、医師とエンジニアが協働し、AI診断技術やロボット手術機器などを開発する事例が増えてきた。こうした取り組みでは、専門性を持った個人が、自らの知見を他分野に応用する姿勢が求められると同時に、異なる専門家同士の対話力や理解力も重要になる。起業やスタートアップ支援を通じて、こうした分野横断型のプロジェクトに参加できる若者を増やすことが、社会の活性化にもつながるだろう。

 たしかに、専門性の深さは社会にとって不可欠な資源であり、全ての人がゼネラリストになる必要はない。しかし、深さが知識を支え、広さが知恵を生むというように、専門性と汎用性を両立する橋渡し役としてのゼネラリストがいなければ、分断された知識や技術は社会課題の解決に結びつかないと考える。複雑化する未来に向けては、専門家であっても一度立ち止まり、他分野との接点に目を向ける姿勢が何よりも大切であると感じる。