子どもの記憶
中2 すみひな(sumihina)
2025年7月2日
「えーんえーん」
赤ちゃんの泣き声がとなりの部屋から聞こえてくる。日本では、「マンマ」「ブーブー」「ワンワン」などの赤ちゃんことばが日常的に使われている傾向があるが、フランスではほとんど使われていないらしい。単にかわいらしい言い回しではなく、大人が子どもの言語レベルに合わせようとするコミュニケーションの努力のあらわれであることがわかる。隣の家族の方とご一緒にエレベーターに乗るとき、お母さんが泣いている赤ちゃんを一生懸命「ほら、トントントントン」といってなだめていた記憶がある。こうした語りかけがあるからこそ、子どもたちは安心して言葉を覚え、自分の気持ちを表現する力を少しずつ身につけていくのだと思う。
子どもの目線に合わせた語りかけや育て方は、子どもが自分の存在を大切にされていると感じるうえでとても重要だと思う。私が小学生だったころ、クラスに裕福な家庭で育っているらしい子がいた。その子は、とても明るく、自己表現が得意だった。そのうえ、他の人が困っている時には自分から進んで助けてあげるなど、思いやりにあふれていた。しかし、自分一人で何かに一生懸命に取り組むことができず、先生や友達に頼ってばかりいた。そのような友人と接していると、やはり、子ども時代にどのようなコミュニケーションをしてきたかが、今の性格や人間関係に大きく影響していることがわかる。つまり、子どもに寄り添う育て方は、豊かな学生生活やその後の人生の基盤を築くうえで欠かせないのだ。
しかし、フランスのように子どもを小さな一人の大人として育てることにもよさがある。ドイツも、フランス同様、赤ちゃんに対しても大人に接するように話しかける傾向がある。このような環境で育った子どもたちは、早い段階から社会の一員としての意識やマナーを身につける傾向があると言われている。アメリカで行われた研究によると、3歳のときに「他人とコミュニケーションがとれる子供」ほど、将来、自分の気持ちや行動をうまくコントロールできるようになる可能性が11%高くなるというデータがある。社会のルールを子どものうちから習得することで自分の意見をより早く相手に伝えることができるのだ。
確かに、子どもの目線に合わせて育てる日本風の育て方にも、子どもを小さな大人として育てるフランス風の育て方にも、それぞれ良さがある。しかし、一番大切なことは子どもの意見に耳を傾けながら寄り添って育てていくことだ。「七五三のお祝い」の由来を知っているだろうか。日本では昔から「七歳までは神のうち」とされ、小さな子どもは社会の一員ではなく、まだ神の領域に属しているものと考えられていたらしい。七歳になってからは人間社会の一員として、教育されていくことを示している。この点では、最初から社会のマナーを学ばせようとする欧米の国々とは考え方が異なっている。お隣の赤ちゃんは大きくなったら赤ちゃんことばのことを覚えているだろうか。次に会う時が待ち遠しい。