無駄を減らし、豊かさを育む社会
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近代文明は、初心者の料理のように技術からの発想によって発展してきた。最初に設計や手持ちの技術があり、それに必要な資源を世界中から求めてきたのである。石炭の豊富なところで始まった技術が全く石炭のないところに導入されることも多く、地元に他の資源があっても既存の技術に合わなければかえりみられなかった。その結果、石油やウランなど地域的に偏在のはげしい資源への過度の依存が起こり、国際的な政情の変化によって一国の経済基盤が揺り動かされ、今や石油資源の枯渇が目に見えはじめている。だが資源は本当にないのだろうか。エネルギー資源や鉱物資源、水資源は我々の身のまわりにかなり豊富にある。ないのはそれを活用する技術と資源からの発想であった。プロの料理人が市場にある旬のものから発想するように、レパートリーを広くもち、それを自由に応用できれば、その時期ごとに最も良い材料で安く良いものをつくることができる。人類が直面する危機を乗り越え、新しい文明への道を拓くためには、発想を一八〇度転換し、技術からではなく資源からの発想に切り換え得るかどうかが鍵となる。
そのための方法としては第一に、今あるものを無駄なく使うように創意工夫することだ。現代の人はすぐにものを無駄にしてしまいがちである。例えば、まだ十分に使えるのに新しい服を買ったり、スマートフォンの機能が落ちていないのに「最新機種だから」という理由で買い替えたりする光景は珍しくない。便利さや新しさを追い求めること自体が悪いわけではないが、それが習慣化すると「あるものを工夫して生かす」という姿勢が薄れてしまうのではないだろうか。僕も、長年ずっと使っていたヘッドフォン耳当てのところが壊れて買い替えおうと思ったが、耳のところだけを新しくすることでさらに長く使えるようになった。これにより新品を買うよりも愛着が増し、同時に「直せばまだ使える」という気づきも得られた。このように、今あるものを無駄にせず工夫して使い続けることは、単なる節約にとどまらず、物に対する感謝の気持ちを育ててくれる。
また第二の方法としては、消費に重きを置いている社会を見直し、物の再利用を進めていくことだ。私たちの社会では、大量廃棄が問題になっている。しかし一方で、リサイクルやリユースの取り組みも少しずつ広がりを見せている。最近ではリサイクルショップなどを通じて、不要になったものを別の人が再利用できる環境が整ってきている。物の寿命は私たちが思うよりもずっと長く、それを活かすかどうかは使う側の意識次第なのだ。
確かに、今あるものを生かそうとする方が、手間や労力のかかる場合もある。壊れたものを修理するには時間が必要だし、再利用するためには工夫が必要である。しかし、ここで大切なのは「どのように時間や労力を使うか」という視点だ。「時間を作る一番の方法は、急ぐことではなく、どこに時間を使うかを考えることである」という名言があるように、単に効率を追い求めて新しいものを買うのではなく、今あるものをどう生かすかを考えることこそが、私たちの未来を豊かにしていくのだと思う。