否定せずアイデンティティを築く
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 自分が誰かということがよくわからなくなるとき、自分の中に本当に自分だけのもの、独自のものがあるのかどうか確信が持てなくなるとき、ぼくらは自分になじみのないもの、異質なもの、それに少しでも接触することをすごく怖がる。自分でないものに感染することで自分が崩れてしまう、そういう恐ろしさにがんじがらめになるのだ。他者の他者としての自分を意識できないとき、ぼくらの自己意識はぐらぐら揺れる。そういうとき、ぼくらは皮膚感覚という、あまりにも即物的な境界にこだわりだすのではないだろうか。そしてそのバリヤー、つまり自分の最後の防壁を、過剰に防衛しようというのが、異物との接触を徹底して回避しようとするいわゆる清潔シンドロームだったのではないか。「自分は~でない。」という否定的な形でアイデンティティを築くよりも他者との関係を通してアイデンティティを見出していく方が望ましいと思う。そう考えた理由を二つ述べる。



 一つ目の理由は、他者との関係の中でアイデンティティを築こうとすることで、自分に自信がつくからだ。吹奏楽部の練習で、私はなかなかフレーズがうまく吹けず、「はぁ」と大きなため息をついてしまった。すると同じパートの先輩が笑って「大丈夫?一緒に練習しよう」と声をかけてくれた。隣にいたクラリネットの先輩も「私も最初は同じだったよ、がんばろう」と言ってくれた。そのおかげで少しずつ吹けるようになり、「自分もチームの役に立てるんだ」と実感できた。仲間と励まし合い、アドバイスをもらう中で、努力する自分だというアイデンティティも少しずつ見えてきた。人との関わりを通して自分を知り、認められる体験はとても大切だと感じた。こうして、他人との関係の中でアイデンティティを確立することで、自分に自信がつくことを実感した。



 二つ目の理由は、他者との関係の中でアイデンティティを築こうとすると自分が成長できるからだ。この間、ピアノの発表会があった。私は発表会に向けて練習していたが、ショパンのワルツの中間部分がどうしても弾けなかった。そこで横にいた先生が「指をこうやって置くと弾きやすいよ。」と具体的に教えてくれた。リハーサルで他の生徒の演奏も聴いて自分なりに工夫をして弾くことにした。発表当日、舞台袖で他の演奏者の音を聴きながら順番を待つと緊張したが、「自分もちゃんと弾ける」と思い直せた。演奏中、先生の教えや他の演奏者の存在を思い出しながら集中できた。この経験を通して、他者との関わりの中でアイデンティティを築こうとすると、自分は努力できる人だと気付き、成長できるのだと感じた。



 確かに、否定的な形でアイデンティティを築く方が簡単である。しかし、「一人で生きる人は強いかもしれないが、他人と関わる人はより豊かになる」という名言があるように、周りの人とのつながりを大切にして、自分らしさを築いていきたいと思う。ピアノの発表会で他の演奏者の存在に助けられ、工夫して練習することで成長できた経験があるからだ。今後も、人の助けや意見を素直に受け入れながら努力し、自分のアイデンティティを築いていきたい。そして、他者との関わりを通して、自分も周りの人もより豊かになれるようにしていきたい。