夢中が教えてくれたこと
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人は生まれながらにもっている資質というものがある。若い君たちは、自分のすばらしい泉がどこにあるのか、さがしている時期だ。なにかが好きということは、そこに資質の鉱脈がある。君だけにしかない青春の標的をかかげて、これだけはやった!という自信が君を大きく変えてゆく。持続することも大切なんだ。自分で決めた目標がなかったら、自分にどうツッパッたらいいかわからない。君らしいさわやかな青春の標的を持とう。
この文章を読んで、僕は、資質というものは遠い世界にあるものではなく、実は自分のすぐ近くにひっそりと隠れているのだと感じた。しかも、それは一度に見つかるものではなく、好きなことに触れているうちに自然と姿をあらわす。文章の中で「青春の標的」と表現されていたが、それはただの目標ではなく、自分の心が本気で向かいたいと思える場所なのだとわかった。
僕が最近とくに夢中になっているのは、休み時間にうさぎ小屋へ行き、うさぎの世話をすることだ。低学年のころは興味がなかったが高学年になって積極的にうさぎ小屋に通うようになった。教室のざわついた空気から一歩出て、うさぎ小屋の前に立つと、急にまわりの世界が静かになり、温かい空気の中で心が落ち着いていくのを感じる。そんな場所が自分のなかで特別な存在になっていった。うさぎ小屋では、エサやりや水の交換、床の掃除などを行う。単純な作業に見えるが、一つでも欠けるとうさぎの体調に変化が出てきてしまう。たとえば水の交換をしないと水が清潔でなくなり病気になってしまう。さらに、じっとして動かない日があると少し心配になる。休み時間が終わるギリギリまで世話をしていると、いつのまにかチャイムが鳴っていて、時間を忘れるほど夢中になっていたことに気づく。慌てて教室に戻るがうさぎたちがエサを食べる姿を見ているだけで、自然と笑顔になり、自分の心が軽くなるような気がするのだ。
うさぎの世話について家で母に話すと、「動物の面倒を見られるのはいいことだよ」と言ってくれた。母自身は動物にくわしいわけではないが、「生き物は言葉を話せないぶん、よく見てあげることが大切なんだよ」と教えてくれた言葉が心に残った。そこで僕も調べてみると、学校で飼われているうさぎの多くは、環境の変化に弱く、ストレスがたまりやすいことがわかった。気温や湿度、騒音にも敏感で、毎日の丁寧な世話が欠かせないという。僕がうさぎ小屋に通っていることは、ただ自分の楽しみではなく、うさぎたちの健康を守ることにもつながっているのだと知り、責任感をより強く感じるようになった。
調べていくうちに、動物の世話を通して一つの分野を極めた人たちの話にも出会った。有名な動物学者の中には、子どもの頃に飼っていた動物を観察し続けた経験が、将来の研究へつながった人が多いという。例えばチャールズ・ダーウィンは、幼い頃から昆虫や鳥を観察し、その好奇心が進化論の礎となった。また、学校の飼育委員をきっかけに、獣医師を目指すようになった人の話も読んだ。生き物と向き合う中で、その命を守りたいという気持ちが芽生え、それが人生の道を決めるほどの大きな力になることがあることに驚いた。僕の世話しているうさぎは学校の二匹にすぎないが、そんな小さな出会いが、人を大きく変えることもあるのだ。
人間にとって夢中になるということは、ただ楽しい時間を過ごすだけでなく、自分の心が何を大切にしているのかを気づかせてくれる大切なことなのだ。うさぎの世話だけでなく、自然の中で過ごす時間にも同じような落ち着きや温かさを感じることがある。森を歩いたり、うさぎの世話をしたりする中で感じる静けさや温かさは、自然と向き合うことの意味を教えてくれる。だからこそ、これからも自然の中で夢中になれる時間を大切にしながら、人間と自然がともに生きていく未来を考えていきたい。