緊張をする理由とは
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年月日
「では向川さん、前に出て見本をやってください。」
先生のその一言を聞いた瞬間、血の気が引いた。体育館の空気が急に重くなり、周りの音が遠くなるように感じた。手のひらには汗がにじみ、足が少し重くなった気がした。
僕は人前に立つと、このように強く緊張してしまう。特に、みんなの視線が集まる場面では、その緊張がはっきりと体に表れる。いちばん心に残っているのは、体育の授業や習い事で、前に立ったときの経験である。以前の僕は、緊張することをできるだけ避けたいと思っていた。
体育の授業で、先生に言われて見本として前に出たことがある。学年合同体育だったので学年全員の視線が一気に集まり、まるで一人だけ明るい場所に立たされているようだった。普段は簡単にできる動きなのに、間違えたらどうしようという気持ちが先に立ち、体が思うように動かなかった。頭では落ち着こうと思っていても、心臓の音が気になり、動きがぎこちなくなってしまった。そのときの僕は、「早く終わってほしい」と心の中で何度も思っていた。
また、少し前に空手を習っていたとき、型を大会で披露したことがある。そのときも強い緊張を感じた。練習では何度も成功していたのに、本番になると手足がかたくなり、動きが小さくなった。それでも途中で止まらず、最後までやり切ることはできた。終わった後は安心した気持ちと同時に、「緊張していても行動することはできる」という思いが残った。たぶん、見ている人たちにも、必死だった僕の気持ちは伝わっていたと思う。
ぼくは、親に緊張をした時にどういうふうに感情をコントロールしていたか聞いてみたら、予想外な答えだった。
お母さんに聞いたら、小さい頃は緊張をすると、手のひらに『人』と3回書いたり、深呼吸をして気持ちを整えていたらしい。
だが、大人になって緊張をすると心臓に悪いかもなのであまりしたくないといっていた。
お父さんに聞くと、人間は多少無理をしないと成長できないよ。と、言っていた。
つまり、人間は無理をせずにダラダラ過ごしていたら、肉体、精神などが崩れていき、やがて廃人などになってしまうとのことだった。
これらの体験や話を振り返ると、もし緊張がなかったらどうなっていただろうかと考える。きっと、失敗しても深く考えず、同じことをくり返していたかもしれない。緊張があったからこそ、自分の行動を見直し、次はどうすればよいかを真剣に考えることができた。緊張している今この瞬間も、体は正直に反応し、自分に「本気で向き合っている」と教えてくれているように感じる。
「雨だれ石をうがつ」ということわざがある。小さな努力でも続ければ、大きな結果につながるという意味である。緊張も同じで、逃げずに向き合い続けることで、人は少しずつ成長していく。緊張とは、人間がさらに成長できる材料であり、人を強くするきっかけである。
「では向川さん、前に出て見本をやってください。」
あのときびっくりして血の気が引いた経験は、今の自分につながっている。これからも緊張する場面はあるだろうが、その気持ちを大切にしながら、前に進んでいきたい。