一粒のシャリから始まる千里の道
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一粒のシャリから始まる千里の道
「おいしそう!今すぐ食べたいな」
僕はじゅるりと舌なめずりをして、キラキラと目を輝かせた。3分後、待ちに待った「いただきます」の合図で僕は勢いよく彩り豊かなチラシ寿司にかきついた。今日は水曜日、家族みんなで夕食を食べる日だ。僕の家では毎週、自分たちでお寿司を作り、それを食べながら一週間の出来事を語り合う。準備の段階からワクワクが止まらない、一週間で一番大切な時間だ。
一番頑張ったことは、酢飯作りだ。実は寿司の主役はネタでなくシャリだと言われるくらい奥が深いらしい。ご飯が熱すぎるとネタの鮮度を落としてしまうし、逆に冷たすぎるとお米が硬くなって口当たりが悪くなる。だからこそ「人肌の温かさ」という絶妙な温度管理にこだわった。温かいご飯に塩・酢・砂糖を合わせ、ウチワの代わりに下敷きでパタパタと手早く仰いで余分な水分を飛ばした。まさに「塩梅が良い」と言う言葉の通り、酢を入れすぎず、お米の一粒一粒が立っている状態を目指した。味見をしてみると、程よい酸味が口の中に広がり最高の仕上がりになった。
ちらし寿司について調べてみたら、面白いことが分った。色とりどりの具材には、海老の「長寿」やレンコンの「見通しの良さ」など家族の幸せを願うメッセージが込められているそうだ。ただ混ぜるだけの料理だと思っていたけれど、実は一つ一つの工程に「誰かを思う気持ち」が隠されていた。僕が一生懸命仰いだ下敷きの風も、家族の笑顔を作る大事な隠し味だったのかもしれない。
最初は「自分でお寿司を作るなんて難しそう」と遠くに感じていたけど、お米を研いだり調味料を合わせたり、仰ぎ続けるという「一歩」を積み重ねることで世界一おいしいちらし寿司にたどり着いた。まるで「千里の道も一歩から」の様だと思った。料理だけでなく、どんなに高い目標でも、まずは自分から一歩を踏み出し、目の前の作業を丁寧に積み重ねていくことが、未来の目標へ到着するために必要なことだ。僕は空っぽになったお皿を眺めながら「ご馳走様」と感謝を込めて声を上げた。