サングラス

    ()  年月日

 その昔、サングラスを持つということは、ちょっとした冒険であった。今はもうそんなことはないが、サングラスの隠れ蓑としての役割はまだ残っている。最近人間関係が淡白に なったとよく言われる。「君子交わりは淡きこと水の如し」というが、それだけ人々が慎み深くなったというより、むしろ友人関係のそうしたわずらわしさに疲れた、という感じがしてならない。そしてサングラスはそれに無関係でないように思えるのだ。サングラスをかけると、かけている本人が世間から見えなくなっているような、錯覚を得られる。世間から見てその人間が、生々しい実体であることを、幾分たりとも薄れさせることが可能なのだ。

 様々なものごとを管理している今の社会は問題である。

 第一に考えられる原因は、管理されていない中でこそ、よりその人の人物像がみえてくるということに対する理解が足りないからだ。僕の友達でよく、みんなからスカしてる、といつも言われている子がいる。たしかにその子は学校では発表などもとても落ち着いており、何事にも動じない。そして普段真顔でいるため、女子からはクール系キャラだと思われているだろう。それを一貫しているならクールな奴という認識で済むのだが、寮だと姿が一変するのだ。寮内では、急に哲学的な変な話を語り始めたり、スイッチが入ると暴れ出したりもする。だから、男子からは学校では女子がいるためかっこつけていると思われており、スカしてると言われているのだ。しかし、ある日その友達が風呂場でぼそりといった言葉が僕たちの予想を大きく覆した。

「おれ、女子がいたら恥ずかしくてああなってしまうんよ。」

それを聞いた友達や僕は、衝撃と何よりその子が急にかわいく思えてきて、みんなで大爆笑した。その友達は、不本意ではあったが、「スカす」というサングラスを僕らから見たらかけていたのだ。

 第二に考えられる原因は、人にはそれぞれ、知ってほしくないことや、知らない方が良いこともあることを再認識できていないからだ。ノーベル賞の親、アルフレッド・ノーベルはダイナマイトを開発した人物だ。アルフレッドの父であるイマヌエルは、発明家であり、幼い頃から科学の面白さを多く伝えていた。そのこともあり、アルフレッドは当時注目を集めていた爆薬のニトログリセリンに興味をもった。爆薬は強力であるが暴発しやすかったため、産業利用は夢のまた夢だったのだ。その後、一八六三年にノーベル家の工場で、爆発事故が起きた。この事故で、弟が亡くなり、安全な爆薬をつくろうと決心したそうだ。そして開発されたのがダイナマイトだ。産業利用ができるようになった画期的な発明だった。しかしその後の新聞で、アルフレッドの兄が亡くなった際、新聞社が誤ってアルフレッドの訃報にしてしまい、「死の商人、死す」と掲載された。その記事を見てアルフレッドは、自分は本当に平和な世に貢献しているのか、そして世の人からどんな目で見られているかを理解して大きな衝撃を受けたそうだ。このことは知るべきことであったが、知らない方が明るく人生を終えられただろう。それでも、アルフレッドはこのことから目を背けずに、全財産の約九十四パーセントを人類に貢献した人への賞の基金として寄付することを決めた。これがノーベル賞の起源だという。

 たしかに、管理することで無駄なく、ものごとをまわすことができる。しかし、管理とはされるものではなく、自分で自分に課すべきものだ。だから、様々なものごとを管理している今の社会は問題である。