進級試験合格です。

<<え2005/54み>>

【総評】
 この作文の一番の良さは、対立する二つの考えを比較(ひかく)したうえで、さらに高い視点からまとめ上げている思考の深さです。事実を重視する立場と、人を思いやるために事実だけにとらわれない立場の両方を丁寧(ていねい)に考察し、「人間らしさを失わないこと」という主題へ総合化できています。中学二年生の意見文として、単なる折衷(せっちゅう)案ではなく、より本質的な価値へ視点を高めているところに大きな魅力(みりょく)があります。

【段落ごとの講評】
第1段落:課題文の要点を整理しながら、「事実に関するひとつの仮説にすぎない」という問題提起を的確に捉え(とらえ)ています。そのうえで、事実をどう扱う(あつかう)べきかという作文全体のテーマにつながる土台をしっかり築くことができています。

第2段落:「事実をありのままに伝えること」の意義について、事故の目撃(もくげき)証言という具体例と脳科学の知見を結び付けて説明している点が優れています。予測符号(ふごう)化という専門的な話題を用いながらも、「客観的事実が社会の信頼(しんらい)を支える」という主張へ論理的に結び付けており、よく調べて考えた(あと)が伝わってきます。

第3段落:「事実を伏せる(ふせる)こと」の価値について、友人への励まし(はげまし)という身近な場面から考察している点が効果的です。事実かどうかだけではなく、その言葉が相手に与える(あたえる)影響(えいきょう)にも目を向けており、人間関係を多面的に捉えよ(とらえよ)うとする姿勢が感じられます。

第4段落:事実を重視する立場と、人を励ます(はげます)立場の両方を受け止めたうえで、「人間らしさを失わないこと」という主題へまとめている点が見事です。特に、「前者でも後者でもなく」という形で対立する意見を一段高い視点から統合しており、中学二年生の総合化の意見文として非常に完成度の高い結論になっています。

【考えを深めるための質問】
 あなたは「人間らしさを失わないこと」が最も大切だと考えましたが、もし「事実を伝えること」と「相手を思いやること」がどうしても両立できない場面に出会ったとき、人間らしさとはどのような行動として表れると思いますか。

字数/基準字数:1437字/600字
思考点:90点
知識点:102点
表現点:92点
経験点:70点
総合点:86点
均衡(きんこう)点:-2点

 


■思考語彙 25種 30個 (種類率83%) 90点
 一方, 確か,。しかし,。すなわち,。例えば,あれば,が可能,ことによって,しよう,そのため,と考える,ないかも,ないため,な場合,はきっと,は言える,を可能,人に対して,友人に対して,取り戻すため,変わろう,守るため,救うため,言葉によって,記録によって,

■知識語彙 93種 143個 (種類率65%) 102点
不可欠,不安,不測,主観,予測,予見,事実,事態,事故,人間,他者,仮説,保証,信号,信頼,個人,共感,共有,再発,処理,判断,利益,前者,勇気,動向,危機,原因,厳密,友人,合理,周囲,唯一,基盤,大切,失敗,姿勢,客観,容易,希望,平穏,後者,必要,情報,意味,意義,成功,担保,指標,挑戦,排除,日常,時代,未来,根底,機能,正確,歩行,混沌,状況,現実,球体,理解,環境,病気,目撃,直面,相手,瞬時,研究,社会,科学,秩序,究明,突発,符号,策定,自信,蓄積,行動,行為,要素,視覚,観察,言葉,記録,証言,認知,認識,車両,軌道,近年,重要,防止,

■表現語彙 141種 230個 (種類率61%) 92点
 確か,が可能,きっかけ,けが,こと,さ,そのため,たち,とき,どちら,どれ,ないため,な場合,もの,よう,を可能,パニック,上,不可欠,不安,不測,主観,予測,予見,事実,事態,事故,人,人間,他者,仮説,保証,信号,信頼,個人,先読み,共感,共有,再発,処理,判断,利益,前,前向き,前者,力,勇気,動,動向,化,危機,原因,厳密,友人,取り戻すため,合理,周囲,唯一,嘘,基盤,大切,失敗,姿勢,守るため,客観,容易,希望,平穏,後者,心,必要,思いやり,性,情報,意味,意義,成功,担保,指標,挑戦,排除,支え,救うため,日常,時代,未来,枠組み,根底,機能,次,正確,歩行,歪み,気持ち,混沌,状況,現実,球,球体,理解,環境,病気,的,目,目撃,直面,相手,瞬時,研究,社会,私,科学,秩序,究明,突発,符号,策,策定,線,者,脳,自信,蓄積,行動,行為,要素,視覚,観察,言葉,記録,証言,認知,認識,誰,誰か,車両,軌道,近年,重要,防止,際,

■経験語彙 34種 50個 (種類率68%) 70点
かける,しれる,と考える,は言える,られる,れる,与える,伏せる,伝える,保つ,傷つける,励ます,取り戻す,取り戻せる,向く,変わる,失う,守る,思いやる,投じる,抱える,持つ,捉える,捕る,救う,流れる,生み出す,異なる,置く,翻る,行う,表れる,超える,防ぐ,

■総合点 86点

■均衡点 -2点
 

人間の性質
   高1 あかさと(akasato)  2026年6月1日

 ノンフィクションの書き手は、在るものを映そうとし、フィクションの書き手は、在らしめるために創ろうとする。ノンフィクションは恣意的に想像力を行使しないということで『在らしめる』という戦いを免除され、『在る』ということに支えられている力を付与されているのだ。最も大事なことは、ノンフィクションには何が可能で何が不可能かの境界を見極めることのはずである。それは事実の断片による、事実に関するひとつの仮説にすぎないのだ。

 事実をありのままに伝えるのは大切だ。例えば、事故の目撃者が客観的な証言を行うことは、原因究明や再発防止策の策定において不可欠な要素となる。しかし、突発的な事態に直面した際、人間が平穏を保つことは容易ではない。近年の脳科学において、人間の脳は常に未来を予測しながら機能しているという「予測符号化(先読み)」の仮説が研究されている。例えば、投じられた球体を捕球する際、脳は視覚情報を逐次処理するのではなく、球体の軌道を瞬時に予測することで行動を可能にしているとされる。この予測機能は日常の環境理解においても極めて重要であり、車両の動線や歩行者の流れ、信号の動向などを絶えず予測することで、私たちは周囲の環境を秩序あるものとして認識している。翻って、事故などの不測の事態は、この「予測の枠組み」を超える。予測が機能しない混沌とした状況において、人間が再び合理的な判断を取り戻すための唯一の指標となるのが、観察や記録によって捉えられた「客観的事実」である。個人の主観的な予測やパニックによる認知の歪みを排除し、目撃された現実を正確に共有・蓄積することによってのみ、社会は次の危機を予見し、防ぐことが可能となる。すなわち、事実をありのままに伝えるという行為は、社会の基盤となる信頼性を担保する上で極めて重要な意義を持つ。

 一方で、あえて事実を伏せることも大切だ。人は時に、相手を傷つけないために事実をそのまま伝えないことがある。例えば、大きな失敗をして自信を失っている友人に対して、「次はきっとうまくいくよ」と励ます言葉をかけることがある。しかし、実際には次も成功する保証はない。そのため、この言葉は厳密には事実とは言えないかもしれない。それでも、このような言葉は相手に希望や勇気を与え、再び挑戦しようとする気持ちを生み出す力を持っている。また、病気やけがで不安を抱えている人に対して前向きな言葉をかけることもある。このような場合、重要なのは言葉が事実かどうかではなく、その言葉によって相手が前向きな気持ちを取り戻せるかどうかである。人は誰しも苦しい状況に置かれたとき、励ましや支えを必要とする。そのため、相手に勇気や希望を与え、再び前を向くきっかけとなるのであれば、あえて事実とは異なることを伝えることにも意味があると考える。

 確かに事実をありのままに伝えることもあえて嘘を言うことも大切だ。しかし「どれほど時代が変わろうとも、人間が人間らしさを失わないために、最も大切なものは『心』である。」という言葉があるように最も大切なのは前者でも後者でもなく人間らしさを失わないことである。社会の秩序を守るために「事実をありのままに伝えること」も、目の前の誰かを救うために「あえて異なる言葉をかけること」も、どちらも根底には社会や他者を思いやる心が不可欠である。よって事実や利益だけでなく、思いやりや共感を大切にする姿勢に人間らしさが表れるのである。