書いた人は森川林 on 6月 07, 1997 at 09:44:41:
小学4年生までの勉強の成績のほとんどは、親の勉強のさせ方によって決まってきます。親が勉強を見てあげられる子は成績がよく、親が勉強を見てあげられない子は成績が悪い、という単純な関係にあります。親ではなく塾や家庭教師であってもかまいません。要するに、学校以外での勉強時間の長い子がよい成績になり、学校以外での勉強時間の少ない子が悪い成績になるということです。
ここで、ひとつの錯覚が生じます。勉強のさせ方次第で成績が上下するのだから、このまま、小学校の高学年から、中学、高校と、同じようにやっていけば、成績はずっとよいままで推移するのではないか、という錯覚です。そして、先取り志向が生まれます。
小学校に上がる前に、ひらがなが書ける子、低学年から英語の勉強を始めている子、小学生のうちに中学の教材に取り組んでいる子、これらの子供たちとほかの子供たちの間にある差は、はじめは驚くほど大きいものに見えます。
しかし、学年が上がるにつれて、ほかの子供たちもその学年の勉強を始めるようになると、成績の差はどんどん縮まり、やがて最初にあった差はなくなってしまう、というのが通例です。しかも、幼児のときに無理にひらがなを覚えるよりも、小学校にあがるころに覚えたほうが、ずっと少ない時間でずっと簡単に覚えられるものです。
こう考えると、時間があるうちに先取りしておこうという考えには、大きな落とし穴があるようです。小学生のうちに微積分ができて、英語も国語も中学高校レベルまで進んでいるという子が、大学入試のころになると意外にふるわないというのもそういうところに原因がありそうです。
しかし、こういう仕組みがわかるのは、自分の子供が成長して大学に入ったり社会人になったりするころになってからです。このころになると、多くの親が、「結局、子供の実力はその時期に応じて成長するのだから、幼稚園や小学校のころにあんなにむきになることはなかったんだなあ」という感慨を持つようです。しかし、それはやはり、自分の子供が幼稚園や小学生のときにはわかりにくいことなのです。小学校のころに遅れをとると、その差がどんどん広がって、やがて一生が取り返しつかなくなるような気さえするので、親はつい夢中になってしまうのです。
それでは何もしないで自然にまかせていればいいのかというと、そうではありません。子供時代に親がしてあげられるいちばん大切なことは、その子の勉強を先取りさせることではありません。その子がその時代にしかできない体験や読書を愛情をこめてたっぷり与えてあげることです。
成績のよい子は、小学校低中学年のころは、学校の勉強がものたりないと思います。しかし、そこで、「だから、今のうちにもっと先の難しいところまで進んでいこう」と思うのではなく、「だから、今のうちにいろいろな体験や読書をしていこう」と考えたほうが、子供の将来の成長にとってはずっと役立つはずです。そういう体験や読書を、親の愛情とセットで与えてあげることができれば、それこそが子供の生涯の財産になると思います。