| 「坊ちゃん」はイギリスで |
| アジサイ | の | 峰 | の広場 |
| 武照 | / | あよ | 高2 |
| 「私が言いたいのは、個体の進化を生み出す自然淘汰などないと言うことや |
| 。」 |
| 対談で生物学者の今西錦治はこのように言う。今西錦治は生物学の観点から |
| 独特の進化論をとなえた人物として知られている。ダーウィンやラマルクが進 |
| 化は「個体」を単位として起こるととなえたのに対して、今西錦治は「種社会 |
| 」を単位したのである。個々の進化論にこれ以上深入りするつもりはないが、 |
| 面白いのはダーウィンの進化論と今西の進化論に、欧米と日本の社会に対する |
| 見方の相違が良く表れているという点である。 |
| 日本の社会は決して個人社会ではない。ストライキなどの経営者と労働者の |
| 間の利益対立が欧米社会に対して非常に少ないと言う事実は、日本が会社と言 |
| う「世間」を構成しその世間を単位として利益を求めているという事を示して |
| いるであろう。しかしその「世間」内の親密さゆえ、しばしばその集団の不透 |
| 明さや、非合理的なシステム等の問題点が指摘されている。これからの社会に |
| おいて個人主義の不足はますます大きな問題となるはずである。 |
| この「世間」のシステムを成り立たせている一つの背景として、「年功序列 |
| 」があるであろう。会社であれば、会社と言う「世間」に属していれば、その |
| 中で地位と給料は保証される。今はつらくとも、そのうち自分が美味しい蜜を |
| 吸える時が来ると言う安心感が、個人間の対立を避ける役割をもっているので |
| ある。これは会社だけではなく、勤労者が高齢者を支える社会福祉、大学にお |
| ける教授と学生の関係などいたるところに見ることができる。 |
| N氏は今の会社に満足だった。何よりも良いのは、素晴らしい上司である。 |
| 何と言っても、私が酒に酔って人を殴り殺してしまったとき上手くばれない様 |
| に処理してくれたのだから!N氏はその後ずっと献身的に働いた。そしておる |
| 日、その上司はN氏を呼んで言った。「実は、あの時私は君を殺人の罪から救 |
| ったが、それは会社の意向であったのだ。私が、ある人に頼んで、死んだよう |
| に演技してもらったのだ。会社を思っているのなら、今度は君が新入社員に私 |
| と同じ事をしてもらいたい。」 |
| これは星新一の「いい上司」であるが、日本の「世間」は多かれ少なかれこ |
| の「共犯者意識」によって成り立っているのではなかろうか。不正はかばい合 |
| い、責任は連帯責任でといったことはそれを良く表わしているであろう。「世 |
| 間」の不透明さが却って「世間」の結束を深めるという仕組みが、より個人主 |
| 義の浸透を遅くしているのである。 |
| 確かに、「世間」を単位とした社会というのは居心地がよい社会と言うこと |
| は事実である。日本の急激な経済成長を支えたのは会社を単位とした経営者と |
| 労働者の結束にあったとも言われている。しかしその「世間」という単位の閉 |
| 鎖性は自らの弱体化をもたらすものであったことも否定できない。 |
| 今西錦司は「種進化」について次のように説明する。「個体が相互に関係し |
| あいながら、全体として一つの進化という振る舞いをする。」個人主義を内包 |
| した「世間」と言うものがこれからの日本に求められているのかも知れない。 |