| 何かがおかしいと、気付いただろうか。あの文章の最後の「くずかごの大き |
| さはその人の心の大きさに正比例すると、かってに決めている」という所は、 |
| 私にとって心の広い人こそあれこれみんな買ってしまって、すぐになんでも捨 |
| てろ……みたいなことをいわれたようなものであった。 |
| そういえば、この文章に例えられているのは「くずかご」であるが、「くず |
| かご」であってこそ私たちの暮らしに身近なものなのか?………そうではない |
| 。「くずかご」でなくたってそんな物、たくさんあるような気がするのだ。 |
| そういえば私は文章と同じような体験をしたと思う。それは去年の一月にお |
| 年玉をたくさんいただいてからの物語である。 |
| 「さあ、今日からそのお金は若ちゃんの物だよ!」 |
| おばあちゃんはにこにこしながらお年玉の袋を渡した。 |
| 「ってことは、何を買っても自由!?」 |
| 「うんそうだよ!だって若ちゃんのお金だもん。」 |
| 袋の中には三千円が入っていた。私はまるで花畑に来たような気分だった。 |
| 自分のお金だなんて、うれしくてたまらなかった。それに、ほしかった花模様 |
| のペンダントだって三千円もあれば六個ほど買えた。 |
| 「わーい」 |
| 私は早速花模様のペンダントを買いに行った。花模様のペンダントのお店は |
| 、アクセサリーを売っているお店で、どれもこれもが可愛かったが、当時、私 |
| は花模様のペンダントが一番であった。しかし行ってみるとお店全体がきらき |
| らと輝いていた。じっとながめていると、花模様のペンダント以上に可愛いも |
| のがたくさんあった。その時点でもう花模様のペンダントどころじゃなくなっ |
| て、あちらこちら見回った。 |
| 「よし、これを買おう!」 |
| やっと決まったのは二十分後である。花模様のペンダントと同じ値段の色別 |
| ブレスレットを六個ほど買って、ぴったり三千円がなくなった。その時は涙が |
| 出そうなうれしさとよろこびがみなぎった。 |
| それから一年が過ぎた。もう誰もあの時買ったブレスレットに触れなかった |
| 。ごちゃごちゃにおもちゃ箱に詰め込まれていた。結局その三年後にはブレス |
| レットはごみ箱に悲しそうに捨てられてしまった。 |
| そして、もうひとつ例がある。日々に欠かせぬ仲間のないがしろという部分 |
| を考えた。 |
| 「大瀧!ちょっとこいよ。」 |
| 塾で渡辺君と大瀧君のケンカが始まった。おたがいになにもかも競争心をも |
| った二人はどれも負けたくないのだが、ただ一つ、野球だけは負けたくなかっ |
| た。そして今日、野球の時間が始まって、大瀧君のチームが勝った。しかし、 |
| 絶対に負けと認めたくなかった渡辺君は怒って大瀧君をぶん殴った。 |
| 「な、何すんだよ、もしかして野球の試合のことで怒ってんのか?」 |
| 「ああそうだよ。この前はうちが勝ったけどな、今回の勝利だって俺のもの |
| にしたかったんだよ!」 |
| そうして渡辺君はもう一発目を大瀧君のほおに入れようとおもった。その時 |
| 、私は渡辺君の手つかんだ。 |
| 「邪魔すんな!!額田!オマエにも一発入れてやろうか!?」 |
| 私はびくっとした。渡辺君のパンチは息が止まるほど痛いといううわさが頭 |
| の中をかすめた。しかし、同時に頭に入ったのは渡辺君は女の子に弱いという |
| ことだ。私はあきれてしまった。私は渡辺君に言った。 |
| 「…………やれるなら…………やってみなさいよ。」 |
| 渡辺君はそなえていた手をゆっくりさげ、ため息をついた。 |
| 「額田、おまえって本当にえらいな。戦争してた俺達を止めたんだろ。…… |
| おおきくなったら、もっと大きな戦争をとめてみるといいんじゃないか?…… |
| ようするに、……………………おまえ、国際公務員になれよ。」 |
| 「え!?私が!?国際公務員に?」 |
| 話の途中で終わったが、仲間をないがしろにするなんてこのナズナがけして |
| 許さない。そんなことは関係ないが、私はこの文章を読んでピンっときたもの |
| はくずかごのことでもなければ、何が必要か必要でないかでもない。「仲間を |
| ないがしろにした」ということであった。 |
| しかし、私はブレスレットをたくさん買ったことを後悔していない。別にく |
| ずかごなんて大した物でもないと思っているが、私は頑固だから、その時私が |
| ブレスレットが欲しかったんだな…とおもうだけである。 |