ムベ の山 11 月 1 週 (5)
★ミミズがある生態系に(感)   池新  
 【1】ミミズがある生態系に生存することで「自然の経済」にどんなかかわりをもつか、それが、イギリスの生んだ偉大な生物学者チャールズ・ダーウィン(一八〇九~一八八二)のミミズに関する着眼点だった。【2】彼は、邦訳『ミミズと土』で知られる『ミミズの習性に関する観察とミミズの働きを通しての有機土壌の形成』という長い表題の書物を、一八八一年に出版した。【3】「このように分化の低い動物で、このように重要な役割を演じてきた動物が、ミミズ以外にいようか。【4】もっと分化の低い動物、すなわちサンゴはサンゴ礁を形成してきたが、それはほとんど熱帯に限られてきた」と、海のサンゴと対比して、地表で絶え間なく働き続けてきたミミズに敬意を表し、ケント州ダウンの家の庭で数々の実験的観察を行っている。
 【5】タバコには関心を示さなかったミミズが、キャベツやタマネギはすぐ穴に引き入れる様子を観察しているであろうダーウィンの姿を想像すると、思わず微笑んでしまう。【6】特に、一定面積内に住むミミズの数量については、一平方メートル当たり一三・三匹、一匹(いっぴき)を三グラムとすると一平方メートル当たり三九・九グラムであることを推定している。【7】そして、それらのミミズがどのように糞(ふん)を排出するか、一定面積当たりの糞(ふん)の排出量はどのくらいか、結果として地表の土とミミズがどのようにかかわってきたか。【8】その一例として、一八年前に石灰をまいた畑に堀を掘った時、切り立った側面に五四メートルにわたって地表から一七・五センチメートルの深さに石灰の層があるのを観察、ミミズは平均して一年に約一センチメートルの土壌を地表に排出しているとして、ミミズの絶え間ない働きが、有機土壌の形成に大きな貢献をしてきたと述べている。【9】結論として、イギリスでは毎年一エーカー当たり、乾燥重量で一〇トン以上の土がミミズの体を通して排出され、その働きゆえに、古い歴史上の遺物も保存されてきたというのである。
 【0】ところで、ダーウィンのミミズの研究にも触れた有吉佐和子の小説『複合汚染』は、一九七四年新聞に発表され、多くの人々の関心をひいたが、その中に、人間が自然をひどく傷めつけた結果、自分たちの命にひどい影響が及んでいる現状が詳しく書かれている。農村を回ってよく聞く「土が死んだ」という言葉について述べた∵箇所を引用する。
 ――「例えばよ、わかりやすく言えば、ミミズのいねえ土のことだな。硫安かければよ、ミミズは、即死すっから。ミミズがいねえとよ、土が固くなって、どうにもなんねえす。土が死んだっちことは、ミミズが死んだっちことだなあ。」
 土とミミズ。例外はもちろんあるけれど、ふつうのミミズは、土を豊かにするために決定的に重要な動物である。「進化論」で有名なダーウィンは『ミミズと土』という書物を著し、多年にわたる研究成果をもとにして、自然の中でミミズが受けもつ役割について詳述し、もしミミズがこの世にいなくなったら植物は滅亡に瀕するだろうと結論している。
 ミミズは、毎日、土を食べて生きている。土はミミズの口から入って外へ出ると、また土になる。しかし、ミミズの口へ入る前の土とミミズが外へ出した土とは、土の性質がまるで違っている。第一に、土と一緒に呑み込まれた新鮮な草の葉や半腐れのワラなどが、ミミズの体内の分泌液によって豊かな黒い土になって出てくる。第二に、出てきた土は細かい団粒状であるから、水や空気が通りやすく、ふわふわと柔らかくなる。――
 農村で多くの人々が、ロにしている「土が死んだ」ということ、それは「ミミズが死んだ」ということだというのは、実に深刻な事態である。もう少し引用を続ける。
 ――篤農家たちが化学肥料によって「土が死んだ」と嘆く場合、当然、「土は生きている」ものという前提がある。一グラムの土の中には数千万から数億という数えきれない単細胞生物やカビが棲息していて、互いに複雑な関係を保っている。ミミズの場合は、人間の目に見える生態系だが、単細胞生物やカビのそれは、まだ研究し尽くされてはいない。――
 その生存と死滅をこのように取り上げられ、ミミズにとってはまさに晴れの舞台とも言えようが、ここで訴えるところが、四億年以上にわたって生存し続けてきたこの動物の地球上からの消滅を救うものになってほしいと思う。

 (中村方子の文章による)