シオン の山 9 月 2 週 (5)
○印象派の光   池新  
 みなさんは空の絵をかくとき、何色でかきますか。ふつうは空色、つまり薄い青色にするのではないでしょうか。しかし、もしかすると、ある人は、昨日の夕焼けの空を思い出してきれいなオレンジ色にするかもしれません。
 確かに、空の色は時刻によっても、天気によっても変わります。空だけではありません。木でもベンチでも人の顔でも、その時々でいろいろな色合いに変わります。では、その時々の色を決めるのはなんでしょうか。
 それは光です。物は、光との関係によってさまざまな色合いに変化します。特に、外の景色は太陽の光をじかに受けているので、一日のうちでもさまざまに印象を変えます。この光というものを大切に考えて、自然の姿をそのまま絵にしようと考えたのが、印象派と呼ばれる芸術家たちでした。
 印象派とは、十九世紀の後半にフランスで起こった画家を中心とするグループです。それまでは、時間をかけてかきこんだ重々しい作品がよいとされてきました。そのため、一瞬の輝きをとらえてすばやく仕上げる印象派の絵は、最初単なるスケッチにすぎないと見られていました。印象派の最初の印象は、あまりよくなかったのです。
 しかし、印象派の人たちは、実はしっかりした科学的な考え方にもとづいて制作をしていました。そのひとつが、シュヴルールという人の色の考え方です。彼は本の中で、となり合う色がおたがいに影響しあって、いろいろな見え方になることを説明しました。そしてとなり合う色どうしが違えば違うほど、より大きな効果があるとしました。
 例えば、赤と緑、黄と紫などは、最も違う色合いで、このような色の組み合わせを補色の関係と呼びます。補色を並べてみると、目がちかちかするような効果を生みます。青っぽい色は奥に∵引っ込み、赤っぽい色は前に飛び出してくるようにも見えます。
 その印象派の画家たちの中で中心となったのが、クロード・モネです。モネは、移ろいやすい光や自然の鮮やかな色を、だれよりも深く追い求めました。
 それまでの絵は、絵の具を混ぜることによってさまざまな色を作り出していました。絵の具は混ぜ合わせれば混ぜ合わせるほど、明るさがなくなっていきます。絵の具の筆を洗っていると、水がどんどん暗い色になっていくことを知っている人も多いでしょう。印象派以前の絵は、暗い部分に影をつけることによってものの奥行きを出していたので、絵が更に暗く重い感じになっていました。
 モネはこうした暗い絵を嫌いました。そして、光に溢れたみずみずしい景色を描くために、新しい技法を使いました。ある色を作るのに、絵の具を混ぜ合わせるのではなく、純粋な色を数多くの点としてとなり合わせるように描いたのです。こうすると、離れて見た場合、それらの色が混ざり合って見えます。しかし、絵の具を混ぜて使ったときよりもはるかに明るい色になるのです。モネは、となり合う点どうしを補色の関係にするなど、いろいろな工夫を重ねました。こうして、モネの絵は、自然の風や太陽のあたたかさまで感じさせるようなものになっていったのです。
 最初は受け入れられなかったモネの絵も、次第に多くの人に認められるようになりました。今その光溢れる絵は、世界中の人々から愛されています。

「モネさんのような絵を、印象派の絵と言ってもイーンショウか。」
「うん、いいかモネ。」

   言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(α)