ツゲ2 の山 12 月 3 週 (5)
★オーストリーのローレンツ先生は(感)   池新  
 【1】オーストリーのローレンツ先生はある初春のころ、ウィーンの森を散歩していましたが、森の中の開けた草原に大きな一匹の野ウサギをみつけました。ウサギは前のほうをみつめていましたが、果たせるかなもう一匹の野ウサギがその方向から出て来ました。【2】二匹のウサギはイヌが出会うとするように、鼻をつき合わせて一種のあいさつをしたあとで、突然、それぞれ頭を相手のしっぽにぴったりつけたまま、小さな円を描いてぐるぐるかけまわり出し、つづいて相手をなぐったり、けったり、空中にとび上がったりして、激しいけんかをはじめました。【3】しかし、このけんかも先生がいっしょにつれていたお嬢さんが野ウサギたちのようすがあまりおかしいのにふき出したため、その声におどろいて、二匹は分かれて別べつの方向にとんで行きました。【4】これはなんでもないことのようですが、同じ種類の動物たちのけんかはすべて、この野ウサギのけんかに似ていることを先生は書物の中で強調しています。【5】二匹のイヌが出会ったときに、みなさんもこんな光景をみたことがあるでしょう。足をつっぱり、尾をぴんと立て、肩の毛を立て、ゆっくり歩みよって、すれちがうように横腹と横腹、頭と尾とが向き合うようになります。【6】つづいてたがいの尻を嗅ぎ合う行動がはじまります。もしどちらか一方が闘いに敗けると感じると、たちまちしっぽを垂れて、ぐるっと背を向けて逃げ出すことになりますが、そうでなければ、けんかの姿勢はそのまま、つづきます。【7】しかし、それでも一方のイヌがかなわないと思えば尾をたれて首すじを強いイヌのほうにさらしたままになります。首すじはイヌにとって、ひとかみされても命にかかわる急所です。しかし、そのとき、ウーウーといいながらも勝ったほうのイヌはけっしてかみつかないのです。【8】先生はロンドン近郊の広い動物園の中で、オオカミのけんかをみてこれとまったく同じことになったことを書いています。イヌよりもはるかに荒っぽいと思われるオオカミのけんかが、イヌや野ウサギ∵の場合と同じなのです。【9】赤ずきんの童話の中ではいつも凶悪な動物となっているオオカミですら、まいったといっている身ぶりの負けたものに向かって、かみつくのをがまんしていることが気づかれるのです。【0】もしオオカミやイヌがみさかいもなく仲間の首すじにかみついていたら、その数はだんだん減少していくことになったでしょうが、オオカミもイヌもこのようにがまんできるということは、動物の生活にとって大切なことと思われます。

(「動物とこころ」 小川隆著 大日本図書より)