レンギョウ2 の山 3 月 1 週 (5)
★(感)ぎらりと光るダイヤのような日
絵
池
池新
渚
波
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ぎらりと光るダイヤのような日
【1】短い生涯
とてもとても短い生涯
六十年か七十年の
【2】お百姓はどれほど田植えをするのだろう
コックはパイをどれ位焼くのだろう
教師は同じことをどれ位しゃべるのだろう
【3】子供たちは地球の住人になるために
文法や算数や魚の生態なんかを
しこたまつめこまれる
【4】それから品種の改良や
りふじんな権力との闘いや
不正な裁判の攻撃や
泣きたいような雑用や
ばかな戦争の後始末をして
【5】研究や精進や結婚などがあって
小さな赤ん坊が生まれたりすると
考えたりもっと違った自分になりたい
欲望などはもはや贅沢品になってしまう
【6】世界に別れを告げる日に
ひとは一生をふりかえって
じぶんが本当に生きた日が
あまりにすくなかったことに驚くだろう
【7】指折り数えるほどしかない
その日々の中の一つには
恋人との最初の一瞥の
するどい閃光などもまじっているだろう
∵
【8】「本当に生きた日」は人によって
たしかに違う
ぎらりと光るダイヤのような日は
【9】銃殺の朝であったり
アトリエの夜であったり
果樹園のまひるであったり
未明のスクラムであったりするのだ【0】
(『茨木のり子詩集』より)