シオン の山 9 月 4 週 (5)
○海の塩の秘密   池新  
 海水は塩辛いもので、私たちはそれを当たり前のことだと思っています。実際、そこに含まれる塩分は大変な量です。海水をすべて蒸発させ、残った塩分を陸地に敷きつめると、百五十メートルもの厚い層ができると言われています。この大量の塩は、一体どこから来たのでしょうか。
 塩分のふるさとのひとつは川です。地球上に存在する川の大半は淡水なので、これは意外な感じがします。雨が降ると水が地中にしみ込んで、土の中にあるミネラル分を溶かします。このミネラル分の中に塩分が含まれています。溶け出した塩分は、川によって海まで運ばれます。ただ、淡水の川に含まれる塩分はごく少ないので、なめても塩辛いとは感じません。
 塩分のもうひとつのふるさとは、海底火山です。活動する海底火山の爆発や熱水(ねっすい)の噴出によって、地中からミネラル分が放出され、その中に含まれる塩分が海水に溶け込むのです。
 このように、塩はいろいろなところから海を目指してやって来ますから、海には塩がたまる一方のように思えます。その上、海からはどんどん水分が蒸発しミネラル分だけがあとに残ります。これでは、塩分がどんどん濃くなっていったとしても不思議ではありません。しかし現実には、海水の塩分濃度は、ほぼ一定です。つまり、増える分と減る分とがうまく釣り合っているのです。では、塩分は一体どこへ行くのでしょう。
 まず、海の生物が塩を体の中に取り込みます。例えばサンゴやエビ、カニなどは、硬い殻を作るために塩類を必要とします。これらの生き物が死ぬと、その殻に含まれていた塩類は海底にたまります。こうして塩分の一部は取り除かれます。このようにして、海水中の塩分は、増える量と減る量のバランスがとれているのです。
 では、この海底にたまった塩分はどうなるのでしょうか。海底を∵含む地殻は巨大なプレートで成り立っています。それらのプレートは少しずつ移動し、二つ以上のプレートが出合うところでは、一方が隣のプレートの下に入り込みます。沈み込んだ海底は高温のマントルの中で溶けていきます。当然、海底にたまっていた塩分も一緒に溶けてしまいます。
 地中から海へ、そしてまた地中へ。塩は、この壮大な旅を気の遠くなるような年月の間繰り返してきました。今日の一杯のお味噌汁にも、塩分の長い旅の歴史が刻まれているのです。

「塩分さん、最初の生まれはどこなんですか。」
「実は、スーパーの食品売り場なんだよ。」
「うそでシオ。」

 言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(Μ)