ススキ の山 10 月 1 週 (5)
お母さんは看護師   池新  
【1】「おかえりなさあい。」
水曜日の朝のあいさつは、おはようではありません。私のお母さんは看護師です。夜勤と言って夕方から夜の間、病院で働くことがあるのです。【2】入院している患者さんは、寝ている間も具合が悪くなったり、どこか痛くなったりするので、一晩中、ナースステイションには看護師さんが起きています。ベッドのそばのブザーを押すと、飛んできてくれるのです。だから、安心して入院できるのです。
 【3】お母さんの夜勤の晩は、お父さんと二人です。夕ご飯も、お父さんが作ってくれます。お父さんの作るご飯は、お母さんのときと少し違います。味が少し塩辛くて、野菜やお肉の切り方が大きいです。【4】お母さんのときは、おかずの種類もたくさんありますが、お父さんのときは、あまりありません。お父さんの作るメニューの中で、いちばんおいしいのはカレーライスです。
 お母さんは、お父さんと結婚する前からずっと看護師です。【5】子供のときからなりたかった職業だそうです。看護師になるための学校は、勉強がとても大変で、普通の学校のような勉強だけでなく、実際にやってみる看護実習というのがあったそうです。でも、お母さんは、看護師になる日を夢見て、いっしょうけんめいがんばったと言っていました。
 【6】私が生まれるときだけお休みしましたが、あとはずっと今も看護師です。お友だちに
「うちのお母さん、看護師なんだ。」
と話すと、みんなびっくりして
「いいなあ。」
とうらやましがります。女の子の中では、人気のある職業だからです。【7】でも、実際は夜勤もあるし、とても忙しい大変な仕事なのだということを知らないんだなあと私は心の中で思います。∵
 お母さんは、時々、
「ゆきちゃん、肩をもんでくれる?」
と言います。そんなときのお母さんの肩は、力こぶを入れたようにかたくなっています。私は、ちょうどよい力でもみほぐしてあげます。【8】すると、お母さんは、
「ああ、気持ちいい。最高。」
と喜びます。肩のほかに、首や足のふくらはぎをやってあげることもあります。長い時間やっていると、お母さんはうたた寝してしまうこともあります。
 そんなに大変な仕事だというのに、お母さんは今まで一度もやめたいと思ったことがないそうです。【9】この間、私が
「どうして看護師をずっと続けたいと思うの?」
と聞いてみたら、お母さんは、
「そうねえ。患者さんから、ありがとうって言われたとき、人の役に立てたんだなあって思えるからかな。」
と言ってにっこり笑いました。【0】

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 φ)