ススキ の山 10 月 3 週
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○自由な題名
○野山に出かけたこと


★「でもね、お母さん(感)
【1】「でもね、お母さん、小学校って、まるで軍隊みたいなんだ。だからぼく、いやなんだよ。」
 なるほど、そのころのドイツの小学校は、規則第一で、暗く重苦しいふんいきに満ちあふれていました。【2】授業も、暗記ばかり。自分で考えることは、いっさい許されません。先生にさからうことはもちろん、質問することさえ禁じられていたのです。おさないアルバートが「軍隊そっくり。」というのも、もっともでした。
 【3】おまけに、無口で体育がにがてなアルバートには、なかなか友だちもできません。一か月もしないうちに、学校がすっかりいやになってしまいました。
 【4】とはいえ、勉強まできらいになったわけではありませんでした。下校してくると、ヤコブおじさんに助けてもらいながら、辞書をひき、本を読み、自分の好きな勉強を深めていきました。
 【5】数学に興味をもったのも、そのころのことです。
 ある日、アルバートはヤコブおじさんにたずねました。
「ねえ、おじさん、『代数』ってなんのこと?」
 おじさんは、待っていましたとばかりに、説明をはじめました。
【6】「『代数』とは、わからない数をさがしだす数学だよ。まず、わからない数を、文字の『X(エックス)』とよぶ。そして、問題でいわれたとおりに、計算式をつくっていくと、さいごに、『X』がどんな数かが、ちゃんとわかるんだ。」
【7】「なんだか、おもしろそうだね。」
「おう、頭の体操みたいなものだからな。」
 こうして、アルバートは、小学生ではとても理解できないような数学を、どんどん、自力で学んでいったのです。
 【8】勉強にあきると、こんどはバイオリンを取り上げ、小さな手で器用に、モーツァルトやベートーベンの曲をかなでます。
 そういえば、バイオリンも、ほとんど独習でした。
 【9】六さいになったとき両親に連れていかれたバイオリンの先生∵は、小学校の先生と同じように、かたくるしくて、いばりくさっていました。はじめのうち、アルバートは、レッスンがいやでたまりませんでした。【0】けれども、家に帰って、自分で工夫しながら練習をつづけているうちに、ある日とつぜん、モーツァルトのソナタがひけるようになったのです。
 それからは、しめたもの。すっかりバイオリンのとりこになったアルバートは、一生、この優雅で複雑な楽器と、親友のようにつきあいました。
 父のへルマンからは文学、母のパゥリーネからは音楽、そしてヤコブおじさんからは科学……。この三つの世界は、アインシュタインの一生の大きな柱となりました。
 
(「アインシュタイン」岡田好恵著より)