ススキ2 の山 12 月 2 週 (5)
○そこでエジソンは(感)   池新  
 【1】そこでエジソンは、とうとうかるい蓄電池の研究にとりかかることになりました。
 さて、研究に手をつけてみると、いままでだれも手をださなかったわけです。それは、おそろしくむずかしいしごとでした。【2】なまりいがいのあらゆる金属をつかい、あらゆる薬品をつかって、実験をこころみてみましたが、どうしてもうまくいかないのです。
 ある日、友人のビーチという人がやってきました。【3】この人はのちに、ゼネラル電気会社の電気鉄道課のしごとをした人ですが、エジソンの蓄電池の研究のことをたずねて、
「おもいのほかむずかしい問題らしいね。さすがのきみも、よわったろう。」
といいました。【4】すると、エジソンがこたえました。
「ビーチくん、わたしは、よい蓄電池のひみつをあかしてくれないほど、神さまはふしんせつじゃないとおもうね。」
「じゃあ、このひみつのかぎは、どうしたら見つかるというんだね。」
【5】「もうれつにかんがえたうえで、もうれつに実験をやってみることさ。」
 だが、エジソンの研究も、しっぱいのれんぞくでした。月日はどんどんと、たっていきます。それでもエジソンは、気をおとしません。
【6】「きょうのしっぱいは、あすはとりかえせる。あすだめならあさってとりかえす……。」
 いつも希望をすてません。朝から晩まで、硫酸・硝酸・化成ソーダなどのつよい薬品をいじるエジソンの手は、すっかりあれてしまいました。
 【7】世界一の天才発明家が、かんがえにかんがえぬき、たいへんな熱心さで、しかも、だれもまねのできないほどのしんぼうづよさで研究をつづけ、それで一年たっても二年たっても発明できない、かるい蓄電池。【8】そんな研究は、はたの人々の目には、まったく不可能なことととりくんでいるとしか見えなかったのもむりはあり∵ません。
 エジソンといつもいっしょに研究をつづけていた一人の所員などは、
「この研究は、エジソンがいままでやりとげたぜんぶの研究をいっしょにしたのより、もっとたいへんだ。【9】しかもエジソンは、一つの実験にしっぱいすると、『これで成功に一歩ちかづいた。』というのだ。これほどの努力には、いかなる自然も、根(こん)まけせずにはいられまい。
 【0】わたしは、エジソン蓄電池がうまくいくかどうか知らないが、いずれにしても、もうエジソンは、世界的発明家などというよりも、世界の偉人だという気がしてきた。」
と、しみじみいったものです。

(「エジソン」 崎川(さきかわ)範行著 講談社 火の鳥伝記文庫より)