サツキ の山 5 月 1 週 (5)
○砂にうずまった町(感)   池新  
【長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。】
【1】「ゴホッ、ゴホッ、エッヘン。」
 お母さんがひどい風邪を引きました。咳と鼻水、それに熱もあるのです。昨日から寝込んでしまいました。それで、仙台のおばあちゃんが手伝いに来てくれました。【2】でも、おばあちゃんは、年をとっているし、うちの台所に慣れていないので、お母さんの代わりを一人でやるのは大変です。だから、ぼくは学校から帰ると、朝お父さんに言われたとおり、お手伝いをすることにしました。
 【3】ぼくは、おばあちゃんが洗濯物(もの)を入れに二階へ行っている間、赤ちゃんの美咲のめんどうを見ることにしました。美咲は、普段は機嫌がいいのですが、お母さんがかまってくれないので、ぐずぐず泣いてばかりいます。【4】ぼくは、美咲のベッドのところへ行って、ぬいぐるみを見せたりガラガラを鳴らしたりしました。
 しばらく遊んでいると、美咲はスースーと鼻を鳴らして眠り始めました。そこで、ぼくは、次の仕事に取りかかりました。【5】おばあちゃんが取り込んだ洗濯物(もの)をたたむのです。下着やシャツ、美咲の肌着など、いろいろなものがあります。ぼくは、まるでお店屋さんのような手つきでどんどんたたんでいきました。中には、形が複雑でむずかしいものもあったけれど、どうにか工夫してたたみました。
【6】「しょうちゃん、味見をしてちょうだい。」
と、おばあちゃんが味見用の小皿をぼくにわたしました。煮物のいいにおいがただよっています。
「うん、ちょっとうすいかな。」
 ぼくは、小皿を返しながら言いました。煮物の中のニンジンは、ぼくが切ったものです。∵
 【7】食事がすんで、お皿を洗うのもぼくがやりました。洗剤が残っていたら体によくないので、しっかりとすすぎました。それが終わると、おばあちゃんと一緒にお風呂に入ってきた美咲に、パウダーをつけたり服を着せたりする仕事です。【8】お風呂が大好きな美咲は、とてもうれしそうに元気いっぱい手足を動かしています。だから、そでに手を通すだけでも一苦労でした。ようやく身支度ができると、散らばったバスタオルやおむつを片付けて、湯冷ましを飲ませます。
【9】「しょうちゃん、ありがとう。よく手伝ってくれるのねえ。三年生っていうのは、こんなにいろいろできるんだね。」
 寝る前に、おばあちゃんが感心したように言いました。ぼくは、今日は遊びをがまんして、がんばってよかったなと思いました。【0】

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 φ)∵
 砂にうずまった町――おそろしいさばくのあらし――

 【1】わたしたちのすんでいる日本には、山があって、また野原があって、木が青あおとしげり、きれいな水がながれています。
 ところが、この地球上には、木も生えなければ花もさかないし、水もない、さばくというところがあります。
 【2】さばくというと、みなさんは、はてしなくつづく、たいらな砂原をかんがえるかもしれませんが、かならずしも、そうではありません。
 【3】さばくには、大きな砂山が、なみのうねるようにつらなっていたり、大小の石や岩がつみかさなっていたり、ごつごつした岩はだがあらわれていたりして、たいらな砂原はすくないくらいです。
 【4】さばくのりょ行で、こまるのは、あついことです。日かげはないし、砂はやけているし、太陽のでているあいだは、とても、あるいてなどいられません。
 【5】へディンは、夜のうちにあるいて、昼まは、砂にあなをほり、その中にねることにして、たびをつづけていきました。
 昼まのあつさにひきかえて、さばくの夜は、はんたいに、ぐっと温度がさがります。【6】ときには、れい度よりもひくくなり、しもがふることさえあります。
 ですから、さばくをりょ行する人たちは、たいてい毛おりのきものをきて、毛おりのぬのを頭にまいています。
 これは、昼まは、つよい日ざしをさけ、夜は、さむさをふせぐためなのです。
 【7】さばくでは、砂あらしというのも、おそろしいものです。
 いままでしずかだったさばくに、とつぜん風がふきだすと、砂ぼこりで、まえをあるいている、なかまのすがたも、まったくみえなくなるほどです。
 【8】さばくに砂山がおおいのは、この砂あらしのためにできたものですが、その砂山もひとつところにとまっていないで、どんどんうごいていきます。
 へディンがしらべたところによると、タクラマカンのさばくでは一年のあいだに、五十メートルも砂山がうごいていたということで∵す。
 【9】そのために、むかし、タクラマカンさばくの西のはしにさかえていた、たくさんの町が、砂の下にうずまってしまいました。
 この砂の下にうずまった町については、ふるくから、いろいろとふしぎなことがつたえられていました。
 【0】そこには、たくさんの金や銀がうずまっているのだが、だれひとりもちかえったものがいない。というのは、このさばくには、おそろしい王がいて、人びとが金や銀をさがしだしてよろこんでかえろうとすると、道をまよわせて、金や銀をもとのところへかえすまでは、さばくをでることをゆるさないというのです。

(「世界ふしぎめぐり三年生」より抜粋一部調整)