ツゲ2 の山 11 月 1 週 (5)
○デンショバトは(感)   池新  
 【1】デンショバトは、巣から二千キロメートルほども離れた場所で放されても、まちがいなくもどって来ます。長距離といえば渡り鳥が海を渡ってとぶのはもっとおどろくべきことかもしれません。【2】例えばツバメは夏の終わるころ、ヨーロッパの国ぐにから南アフリカ各地に渡って冬を過ごします。しかも、翌年の春にはヨーロッパにまいもどり、以前の巣があって、そこからとび立った建物の軒下にふたたび巣をかけることもあるのです。【3】イギリスから南にとんで行った十四羽のツバメの足に足環をはめ、印としておいたところ、全部が南アフリカでみつけられたという報告もあります。この渡行(とこう)距離はおよそ一万キロメートルもあるのです。【4】そして、ツバメたちは春にはまたイギリスにもどってくるわけです。どうしてこんな長い距離を正確に往復することができるのでしょうか。親鳥から次つぎの世代に渡りの道筋を伝えるのでしょうか。【5】どうもそうではないらしいのです。親鳥は若い鳥たちがとび立つまえに、さっさと先にとんで行ってしまいます。若鳥はその後を特に追いかけるのでもないのです。
 【6】一度、通った道を帰ってくるときには、途中の地形や目立ったものが手がかりになります。ところが渡り鳥は洋上をとんで渡行(とこう)するので、なにも目印はないし、しかも夜間飛行もするのです。
 【7】アメリカ産のチドリは、初秋のころ、カナダから南アメリカに三千キロメートルの洋上をノンストップでとぶということです。ペンギン鳥はとぶことはできませんが、中には毎年、南極大陸と南アメリカとを泳いで往復するものもいます。【8】鳥たちがまちがいなく巣にもどってくるのは、地形をおぼえたり、目立ったなにかを目印にしたりするのではないようです。
 虫たちもこれに似た大移動をします。【9】イナゴの大群が、東アフリカでは、八時間にわたって休みなく五〜六〇〇キロメートルの∵距離を一定の方向にとんで行くということです。イナゴの幼虫は、羽をもっていませんが、羽をもつようになると群(む)らがり出し、とび立って行くのです。【0】乾燥した年には緑の草を求めて、風をたよりに群(む)らがってとぶのです。ヨーロッパにいるヒメアカハタチョウは冬の季節にはそこでは生き続けられないのですが、その季節に北アフリカで繁殖します。やがて春をむかえると、チョウは地中海を渡って六月ころにはヨーロッパに到着します。七月に卵を産みつけ、新しい幼虫は八月には一人前になります。大部分のチョウはヨーロッパで冬を越すことはできませんが、その中からふたたび、アフリカにとぶものもいるのです。チョウは一定の方向にとび、風向きが変わっても方向をとりちがえないで行きますので、渡り鳥と同様、ふしぎな能力をもっているわけです。

(「動物とこころ」 小川隆著 大日本図書より)