ツゲ2 の山 12 月 1 週 (5)
○ここでもう一度(感)   池新  
 【1】ここでもう一度クレバー・ハンスの誤りを思い出してください。クレバー・ハンスが計算をするというのはまちがいでした。それならば、動物たちはみんな数えることはできないのでしょうか。【2】ハトは四粒のとうもろこしを一まとめにして積み重ねた山と五粒の山とを作って置くと、これを区別して好んで五粒の山をつつき、さらに五粒と六粒とにすると五粒よりも六粒を好んでつつくという報告があります。【3】この実験では六粒と七粒とにしたところ、それは区別できなかったということです。ハトはこのように数の大小をある程度はみわけられることがわかります。人間でも一度に目でみて数えられる数は七つ前後だということですから、ハトが六つと七つとの区別がつかないのもうなずけることかもしれません。
 【4】この場合には同時に数の多少が比べられるのですが、同時には比べられない場合はもっとむずかしくなります。ツバメは巣に七つか八つの卵を産んで温めますが、卵の一つをそっととりのぞいてみると、すぐにさらに一つを産んで加えます。【5】また一つをとり除くとまた一つを産み、そういうことをくり返すと五十も産み続けたという報告もあります。しかし、これはツバメが数えながら卵を産んでいるのかどうかは怪しいものだと思います。【6】別の実験では鳥は巣の中の四つの卵の中から二つの卵をとり出すと気づきますが、一つだけではまったく気づかないという報告もあります。
 オランダのレベッツ先生たちはニワトリに一列に並べたコメ粒をついばませる実験をしましたが、一粒置きにコメ粒を糊ではりつけてとれないようにしました。【7】トリはすぐにそれがわかってまちがいなく一粒置きにつつくことができました。この訓練のあとで、二粒置きにとれるようにしましたが、これもできます。ニワトリがほんとうに数えていたのかどうかはこれだけではどちらともいえないかもしれません。【8】いちいち、数えなくてもはがれるコメ粒とはがれないコメ粒とをなにかの手がかりで区別していたかもしれないからです。∵
 しかし、ハトの実験の結果ではハトは数えることができそうなのです。【9】ハトの前に一度にいく粒もの穀粒を並べるのではなく一粒ずつ出します。そして六粒までは自由についばんで食べることができますが、七粒めごとにはりつけられた粒を出しそれは食べることができないようにしました。【0】これをくり返しているとやがてハトは六粒つついては七粒めはつつかないで見送るようになるのです。しかし、この結果でもハトがほんとうに数えていたのかはわからないのです。六粒まで食べる時間がわかっていて、時間の経過で判断していたかもしれないからです。そこで一粒一粒を出す間の時間をいろいろ変えてみましたが、それでも七つめはつつかないで次を待つのは変わりなかったのです。

(「動物とこころ」 小川隆著 大日本図書より)