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小学校低学年の音読長文に、難しすぎるものがあるのはなぜか  2014年7月9日  No.2180
 URLは、https://www.mori7.com/index.php?e=2180      




 言葉の森の課題集の長文は、この7月から大幅に変更しました。これまでの暗唱長文と読解マラソン長文を一緒に組み込んだため、長文の中には、かなり難しいものも入るようになりました。
 低学年のお母さんから、「子供も読んで理解できないし、親でも理解できないような難しい長文を読むのはなぜか」という質問がありました。この質問は当然です。
 そこで、まずこの言葉の森のホームページの記事で、「なぜ難しすぎる長文を読ませるのか」という説明を先に書いておきたいと思います。

 読書については、子供の好きな易しい楽しいものをたくさん読むというのが基本です。自分の好きな本の多読というのが、読む力と書く力の基礎になります。
 易しい本であっても、本をたくさん読んでいる子は、文章を読むことが速くなりますし、また文章を書くときもリズム感のある滑らかな文章を書くことができます。
 難しくためになる本を少ししか読まないよりも、易しくちょっとくだらないと思われるような楽しい本をたくさん読んでいる方が、読解力も表現力もつくのです。

 しかし、読む力には、多読のほかにもう一つの読み方が必要です。それが精読です。
 その学年の子供にとっては難しい内容と表現の盛り込まれた文章をじっくり読むという読み方も必要なのです。しかし、この精読というのは、個々の単語の意味を調べて、書かれていることを逐一理解してじっくり読むということではありません。そういう勉強的な読み方をしても、時間がかかってくたびれるだけで、読む力はつきません。
 精読とは、ただ繰り返し読むことです。別の言葉で言えば、精読とは、難読の復読という読み方なのです。

 易しく楽しい多読と、難しい精読とが、読む力をつけるための読み方の両輪です。
 ところが、この難しい文章というのは、低学年には低学年なりに難しい文章があり、中学生や高校生にはそれなりに難しい文章があり、大学生や社会人になってもそれなりに難しい文章がある、というふうに果てしないものです。
 そして、大学生になって、その大学生なりに難しい文章を読める人は、考える力がつきます。しかし、ほとんどの大学生は、そういう難しい本は読みません。同じように、中学生や高校生も、その中学生や高校生なりに難しい本を読むような生徒はほとんどいません。しかし、中学生や高校生は、入試問題という手頃な難しさの文章があるので、勉強として読んでいくことができます。
 この難しい文章を読むときに大事なことは、「わからない言葉があっても、理解できないところが多くても、何しろ最後まで読んで、その文章に慣れる」という姿勢で読むことです。
 ほとんどわからない文章でも、最後まで読み切ると、必ずその人なりに理解できたという核のようなものができます。その核がたとえ小さくても、自分なりにわかったところがある、ということが大事なのです。

 低学年の子の文章力についても同じことが言えます。
 多読で易しく面白い本を楽しく読んでいくということが、まず基本です。
 しかし、その一方で、難しい文章を繰り返し音読して、意味の理解できないところがあっても、その全体像に慣れるということも大事なのです。ただし、低学年は長時間の勉強をするべきではありませんから、読むのに時間がかかる場合は、1ページ全部読むのではなく、番号で3番までとか、行数で10行までとか、句点の数で3つまでとか、あらかじめ制限を決めておいてもいいです。大事なことは、難しい理解できない言葉があっても、それを気にせずに、最終的にすらすら読めるようになるまで繰り返し読むということです。

 湯川秀樹は、幼児年長か小1のころに、四書五経の素読をさせられました。これは、その時期の子供にとっては、難しいどころが、全文意味不明の呪文のようなものだったと思います。しかし、この素読の目的は、書いてあることを理解することではなく、ただ繰り返し読んですらすら読めるようになることでした。しかし、書かれているのは日本語ですから、どんなに難しい文章であっても、すらすら読めるようになると、その文章に流れている雰囲気が頭の中に浮かび上がります。こういう読み方が、子供の考える力のもとになっていったのです。
 考える力は、易しい本の多読では身につきません。難しい文章の復読によって身につくものなのです。

 では、今回の課題集の長文が具体的にどのくらい難しいかというと、それは、次のようなものです。
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 スカートやズボンを買うときは、まずウエストのサイズを確かめます。では、地球のウエスト、つまり円周はどうやって測るのでしょう。
 現代の科学者たちは、メジャーの代わりに人工衛星を使います。北極と南極を通る二つの衛星で、地球を外がわから測るのです。そのようにして算出された数値は、約四万八千キロメートル。大変なウエストサイズです。
 しかし、今からおよそ二千二百年前、すでに地球を測った人がいたのです。エラトステネスは、ギリシャの数学者で天文学者(てんもんがくしゃ)でもありました。彼の時代には人工衛星などないので、地球が丸いことさえ知らない人がたくさんいました。もちろん、地球を測ることのできるほど長い巻尺もありません。エラトステネスが使ったのは、一本の棒きれでした。
 エジプトのシエネという都市にいたときのことです。エラトステネスは、一年でいちばん昼間の長い夏至の正午に、太陽が真上に来ることに気づきました。太陽の光が影を作らずに井戸の底まで届いていたからです。しかし、そこから北に八百五十キロメートルほど行(い)ったところにあるアレクサンドリアでは、同じ夏至の日の正午に影が見えたのです。そこで、エラトステネスはあることを思いつきます。
 彼はまず、アレクサンドリアにまっすぐな棒を立てました。正午にその棒が作る影を観察するためです。影の角度を測ったところ、垂直方向に対して七・二度でした。エラトステネスは地球が丸いことと円周の全体が三百六十度であることを知っていました。三百六十を七・二で割ると五十ですから、棒の角度七・二度は円周の五十分の一になります。ということは、シエネとアレクサンドリアの間の距離も、地球の円周の五十分の一と等しいはずです。そこで二つの町の距離を五十倍し、地球の円周は、約四万キロメートルから四万六千キロメートルだという結論に達したのです。それは、驚くほど正確な数値でした。

「エラトステネスさん、棒で測るなんて、いつ思いついたんですか。」
「ぼうっとしているときにね。」 
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 この長文の中の「三百六十を七・二で割ると五十ですから、棒の角度七・二度は円周の五十分の一になります。ということは、シエネとアレクサンドリアの間の距離も、地球の円周の五十分の一と等しいはずです。」などというところは、大人でも図を書いてみないとよくわかりません。
 低学年の子供が、この文章を読んで自力で内容を理解できることはまずありません。しかし、子供は、この文章を繰り返し読んで、次のように思うのです。「昔の人で、地球の長さを測りたかったという人がいたんだ」「その方法として、棒の影の長さを測るということを思いついたんだ」「大きくて測れないようなものでも、小さいもので測ることができる方法があるらしい」「しかも、それが数字で表せるぐらいに正確な方法らしい」。こういう理解が、その子供にとっての理解なのです。
 しかし、もちろんここで、お父さんかお母さんが登場して、図を書いて具体的に説明してあげれば、子供はやはりその説明を正確には理解できないかもしれませんが、大人の世界にはこういう不思議な学問的な方法があるらしいということを理解します。こういう学問の世界に触れることが、考える力のもとになっていくのです。

 今の教育は、理解を前提にしているので、子供の理解度に応じて、甘く柔らかく煮込んだようなものしか与えていません。そのひとつの例が、その学年で習っていない漢字を使わないというような国語の教科書です。
 人間は、将来たったひとりで世界に立ち向かっていかなければならないのですから、習っていようが、まだ習っていまいが関係なしに、まず世の中にあるものの全体にぶつかってみるという経験をしていくことが大事です。だから、難しい文章は、極端に言えばわからなくてもいいのです。しかし、できれば、お父さんやお母さんが、その難しい文章をおもしろおかしくわかりやすく説明してくれればなおいいのです。その際、大事なことは子供に理解させることではなく、お父さんやお母さんが、そのわかりにくい文章を説明しようとしてくれているという姿勢です。

 言葉の森の長文は、このような意味で、ときどきかなり難しい文章が入っていることがあるのです。
 
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