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無の文化と教育7(最終回)  2011年9月6日  No.1347
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 無の文化は、経済や教育だけでなく、政治にもあてはめて考えることができます。

 しかし、この話は手短に書きたいと思います。



 政治体制の分類の仕方のひとつとして、アリストクラシー(貴族主義、血統主義、身分主義)と、メリトクラシー(能力主義)という分け方があります。

 アリストクラシーの欠点は、支配が固定化することによって腐敗が生まれ、その結果、社会の中に不合理が蓄積し、やがてそれが抗争に発展するということです。

 その点、能力主義は、能力のある者がリーダーとなる点で一見合理的な仕組みのように見えます。しかし、この能力主義は、容易に、能力ある者による血統主義に転化するのです。



 ところが、この矛盾を解決するヒントが、日本の政治の仕組みの中にあります。

 それは、身分の高い者がその身分に伴う倫理観を持って行動するということです。例えば、乃木希典は、高い地位にありながら常に謙虚な人間性を保ち続けました。明治維新の際、支配者であった武士階級は、自主的に禄を辞退し農民になりました。天皇の最も重要な仕事は、民の幸福を祈ることだと言われています。



 有の文化における政治では、支配する者と支配される者があり、力のある者と力のない者がヒエラルキーを形作っています。その両者をつなぐものは、命令と強制と賞罰です。この仕組みが強固であることが理想の政治のひとつの形となっています。

 そして、これが、現代の会社、学校、団体のさまざまな組織の原理となっているのです。



 これに対して無の文化における政治では、命令や強制などの作為がないこと、自然のうちに調和していること、リーダーがなくても全体がまとまっていることなどが、理想の姿と考えられています。

 支配する者も、支配される者もいず、ただみんなが集団全体の意志のようなものを感じ取る感性を持っていて、その集団の意志が求める役割を各人それぞれに果たすというのが理想の政治なのです。

 これは、ちょうど、鳥の群れや魚の群れが、誰がリーダーとなって指示するわけでもないのに、集団全体を一つの形として動いていくのと似ています。

 こういう集団では、リーダーはエゴを持たないことが第一に求められます。また、リーダー自身も、エゴを持たないことが正しい判断を下す条件であることを暗黙のうちに了解しています。

 身分間の移動はありますが、基本的には身分主義が社会の前提になっていて、各人はその身分の中で、自分が集団全体の意志によって求められている役割を果たすために自分を磨くという仕組みの社会になっているのです。



 有の文化の政治は、個人のエゴイズムを前提にしているので、多数決、三権分立、二院制など、エゴを抑制する仕組みを追加していかなければ制度を維持することができません。これが、現在の政治の複雑化と混乱の文化的要因です。



 これに対して、無の文化の政治は、リーダーとなる人がエゴを抑え、大衆に奉仕する気持ちを持ち続けることによって制度を維持するという一種の王道政治を目指しています。

 これをきれいごとと思うかもしれませんが、実は、日本の歴史ではかなりの期間、このような王道政治が行われていました。徳川幕府は300年間続きましたが、これだけの長期間の権力の固定化にもかかわらず、他の国のように、権力者が暴君になるとか腐敗するとかいうことがほとんどありませんでした。

 仁徳天皇が、民のかまどから煙の立ち上るのを見て安心したという逸話は、日本の民衆の中に、リーダーのあるべき姿の例として生きています。



 このように考えると、日本の政治の根本理念は、権力を持つ者の倫理観ということに集約されるように思います。

 日本が将来、世界に提案する新しい無の文化の政治は、民主主義に支えられた清潔な君主制になると思います。

 そのような倫理観を育て継承するのが、実は、社会科教育の本来の役割です。地理や歴史や政治経済の知識は、知識そのもののためではなく、人間が社会的にどのように生きていくかを学ぶための知識として教えられる必要があるのです。(おわり)

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