創造と発表の新しい学力
総合選抜入試にも対応。探究学習を超えた、新しい創造発表学習。
AI時代には、知識の学力よりも、思考力、創造力、発表力の学力が重要になる。

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作文教室の丘から 小学生、中学生、高校生の作文 (編集)

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   人間の生活との調和を礎に科学を見直す   高原 八千穂

 近代の科学の発展のゴールとして、人々は人間の生活の豊かさや幸福を目指してきたはずではなかったろうか。今週になって起きた原発施設での事故が報じられている。数年前あった放射能漏れによる田畑への影響で、私はスーパーでその土地の米を買うのをためらったことを憶えている。自分の口に入るものに悪影響があるとなると、途端に現実性をおびる。遺伝子組み換え食品表示が日本で義務付けられて3年になる。しかし、それまでに、まったく意識せずに遺伝子組み換え食品を口にしてきただろう。また、今日も、遺伝子組み換え食品表示は、検証できる品目だけが対象になっていることから、遺伝子組み換え食品を口にしていないとは言い切れないのが現実であろう。人体への影響は研究中であり、立証されてはいないものの、様々な危険な影響の可能性が指摘されている。科学の発展がもたらした結果、食卓に上ってくるものを、我々は信用できなくなってきている。これは人間の豊かな生活とは決して言えないであろう。AとBの資料は,現在の科学の進む方向性が手放しで賞賛できなくなってきていることの原因について考察し、問題を提起している。科学を技術の面からだけでなく、科学が基づいている我々の人間としてのバランス感覚を見直して、人間の生活の中での科学の位置づけを確認することが重要だと思われる。
 第一にAの資料では、これまで、人間は自然に手を加える際はいつも、人間にとって管理がしやすいように、自然を単純化した環境として整備してきたこと、また、今後も世界の中の環境を単純化する方向にあることを挙げている。しかし、その結果がもたらしたものは、我々の生活を豊かにしているだろうか。次々と開発される抗生物質に頼りすぎた結果、現代の人間の自然治癒力は低下していると言われている。下水を整備し、水洗トイレが普及し、日本では公共のトイレにもウォッシュレットが備えられている場所もある。雑菌が極めて少ない環境は、清潔であり、人々の生活を向上させているのにも思われるが、その反面、人間の身体は菌への抵抗力を失い、現代人の三人に1人が、なんらかのアレルギーを持っているという。私の幼少の頃を思い起こすと、春先にマスクをして、歩いている人を見かけることはなかったように思う。「花粉症」などという病名も耳にすることがなかった。私も毎年春にはマスク、点鼻薬、点眼薬がかかせず、煩わしいこと極まりない。同様に「アトピー性皮膚炎」という名も一般的に知られるものではなかった。現在では、小学校のクラスのうち何人かはアトピー性皮膚炎の児童がいて、食制限をうけている。人々の暮らしは便利に、清潔になったが、本来人間として備えていた抵抗力を弱めているという大きな犠牲を払っているのも事実だ。
 第二にBの資料は、近代科学は、人間の日常の感覚の調和を保つ上で必要な要素である「遠近法」の間隔を否定することを出発点としているために、感覚的なものを排除して、厳密性を獲得して発展してきたことについて述べている。その結果、人間の実感や直感をもって察する危機感や違和感と科学の間に大きな隔たりが出来てしまったことが、現代科学の問題の原因であることを説明している。クローン技術の進歩の成果が報道される度に研究者たちが、動物実験だけで満足しているわけはないだろうと思う。人間のクローンを開発する試みは既にどこかの研究室では極秘で行われているかもしれないと。将来、自分の血がつながった人間のクローン化がされる世の中を想像すると、恐怖と不気味さを憶えずにはいられない。昔観たアメリカ映画で、ある男のクローンが存在し、人間が侵略してきたクローンを殺して、めでたしめでたしのはずが、結局殺されたのは人間の方で、クローンが人間に成りすましていることに周囲は気がつかない、という恐ろしいエンディングを思い出して、ぞっとする思いだ。
 科学の進歩によって人々の暮らしは確かに便利になった。しかし、便利さは人間としての生活の豊かさとイコールではない。我々人間が人間らしく、本来備えている機能を活かし、健康で、満ち足りた心で生活するために、科学が存在するべきである。科学の目指すところが、人間の生活を危険にさらす兵器や核物質の研究や、免疫力を低下させるための新薬の開発であってはならないのだ。現代の科学の在り方を問い、今後の科学が進歩する方向を間違えないためにどうしたらよいか。もっと我々が人間として持っている一般的な感覚を取り入れて、科学を捉えるべきであろう。自分や家族の生活の中で、どういった影響があるのかという視点を持ち、人間の生活の中でイメージして世界を捉え、科学を位置づけ、目の前の科学の結論を導き出すべきである。科学の進歩は顕微鏡の中に限定されたミクロの中に存在するのではなく、自分や自分の家族、子孫の日々の生活の中にあるのだ。人間の幸せな暮らしのために、これからの科学者および研究者の資質として最も求められるのは、自然と向き合って対話した経験を持ち、周りの人間と向き合って対話ができることだと私は思う。

   講評   nane

 書き出しから気合の入っている文章です。現実の身近な問題としてとらえているので、文章に迫力があります。
 第一の原因の、単純化した自然によって人間の抵抗力がなくなったというのはいい指摘だと思います。犬でも、飼い犬は水溜りの水を飲むとおなかをこわすことがあるそうですから。
 第二の遠近法の例でクローン技術を取り上げた点もとてもわかりやすい。科学が一種の不気味さを伴ってきたのが近年の特徴ですね。
 結びの名言もよく書けています。顕微鏡の向こう側で進歩があるだけでなく、顕微鏡のこちら側の現実の世界の幸福に結びつかなければならないということですね。
 2時間で2000字の力作で、文句なく合格。

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 しかし、子供たちの実力はそれぞれ個性的です。上手に書けている子の作文を見せて、自分の子供の作文と比較しないようにお願いします。

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