創造と発表の新しい学力
総合選抜入試にも対応。探究学習を超えた、新しい創造発表学習。
AI時代には、知識の学力よりも、思考力、創造力、発表力の学力が重要になる。

昨日957 今日493 合計13201
作文教室の丘から 小学生、中学生、高校生の作文 (編集)

小学1・2年生   小学3・4年生   小学5・6年生   中学1・2・3年生   高校1・2・3年生

   エライ人   ノンキィ

 “でもな、別メニューで上半身強化して皆びっくりさせんねん。”
彼女の口から出た言葉を、私は何度も反芻している。全国に名を轟かす、わが高校最大の誇り、女子ハンドボール部で文字どおり血を吐くような練習に励む友人がある日、松葉杖をついていた。驚いてわけをたずねると、練習中に左足の靭帯を損傷したという。
”今度手術やねんけど名、リハビリに四ヶ月もかかるねん。“
どんどん曇ってゆく彼女の顔を見て、私は気の聞いた言葉の一つ出てこない自分を呪った。焦って焦って、“そっかあ。”“辛いなあ”など月並みな相槌を打つ私に、彼女はぱっと笑って言ったのだった。
 逆境を乗り越えて人は成長するとは、よく言われることだ。だが実際、私たちの多くは起伏の少ない緩やかな人生行路を歩む。特別な才能を与えられたごくひと握りの人に憧れながらも、自らの日常の中ではできる限り逆境を遠ざけようとしている。逆境を乗り越えられる人と回避する人を分かつのは、本当に才能だけなのだろうか。もし幸運にもそうでないとしたら、ぬるま湯の中で生きてきた私は一体何をすべきなのだろうか。
 私たちが目標に向かって進む上で、その歩みが止まることがあるとすればそれは、私たちが自分のいる場所に満足するときである。怪我に屈せずチームメイトから取り残される不安をも打ち払う友人の強さは、ただひたすら上手くなりたい、前へ進みたいという飽くなき渇望であろう。目指す場所の明確な指標が見えず、どこから差すかもわからない光を求めて進もうとする力こそが彼女の原動力である。何かをなそうというとき、自ら限界を作ってしまった時点で私たちの前進は途絶えてしまうのである。
 残念なことに、今日の日本は「努力」や「根性」などという言葉は拒絶される風潮にある。目標を見つけても、到達できなくてもいい、頑張らなくても死なないじゃないかというような思想に若者が洗脳されつつある。確かに苦痛でしかないことを頑張る必要はない。いやなら背を向けても構わないはずだ。だが何かを成し遂げる道には、逆境が例外なく待ち受けている。だから私たちは目標までの道程を愉しんで歩むべきである。先の見えない心細さも逆境と向かい合う苦痛も全て愉しんで超えてゆけばいい。口でいうほど容易でないことは承知であるが、私の目指す人間像である。
 小さい頃、ベートーベンの伝記を読んでどうにも解せないことがあった。どうして両耳の聴覚を失ってさえ、彼は音楽を作り続けたのだろうか。作曲しても聴こえない、それは彼にとって大きな苦悩と絶望を与えただろうに、なぜ投げ捨てなかったのだろうか。苦痛ばかりのことにも耐えられる人を真の偉人と呼ぶのだろうと思っていた。けれど、今の私はそうは感じない。偉人というのは、逆境に耐えうる人ではなく、逆境の中に楽しみを見出せる人だと信じている。
 逆境の中で発せられた彼女の言葉と自信に満ちた笑顔が忘れられない。こんなに身近に、本物の偉人がいたなんて。

   講評   nara

 ノンキィさんのおかげで、今度の高校総体の楽しみが一つ増えた。ノンキィさんの学校とがんばるお友達を、密かに応援することにしよう。電話で話してくれたとおり、手書きならではの勢いと言葉の使い方が、この作文の特長となっているね。

毎月の学年別「森リン大賞」作品集森リンの丘 
 自動採点ソフト「森リン」で上位になった作文を掲載しています。
 しかし、子供たちの実力はそれぞれ個性的です。上手に書けている子の作文を見せて、自分の子供の作文と比較しないようにお願いします。

作文教室受講案内   無料体験学習   作文講師資格 
Online作文教室 言葉の森  「特定商取引に関する法律」に基づく表示」  「プライバシーポリシー」 
お電話によるお問合せは、0120-22-3987(平日9:00-19:30)