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　　　大きな翼　　　くるりんぱ

　優れた書物には、どんな分野のものであっても小さな世界がある。読み手を引きずり、立ち止まって空想させるものがあったら、それは小さな世界だと考えてよい。少年の頃、しゃべることへの不信から自分探しで本を読み始めたところ、書物の中にはたくさんの同類がいた。ある時期、自分もまた周囲の人に思いの通じない人と思われているのではないかと気付いた。私達は、ときには自分を客観的に見ていくべきである。
第一の方法として、相手に対して謙虚になることが大切である。私は高校の教員である。毎日、授業のほかにクラス関係の仕事、校務に関する仕事などで一日が瞬く間に終わっていく。そんな忙しいときに限って、卒業生が遊びに来る。「先生、元気？」。元気だから仕事させてよ、と叫びたい衝動を抑えながら大学やアルバイトの話などとりとめのない話が続く。自分のクラスの生徒であればもう少し会話も広がっていくが、多くは授業を教えていた関係で知っているだけの他クラスの子である。それは元の担任がひとしきり話をし終わったにもかかわらず、まだ帰る気配がないので、教科担当の先生にも挨拶してこいと命令した結果、私のところへの訪問だからである。それがわかっているからこちらも適当に話を切り上げたいところだが、なかなかうまくいかない。ようやく帰る段になりほっとしていると、ほとんどの子が「先生ありがとうね」とうれしそうに帰っていく。「先生忙しそうなのに、たくさん話を聞いてくれて元気が出た」と言われると、あ〜悪かったと自己嫌悪である。卒業生も職員室の雰囲気から、実は先生達は忙しいとわかっているのである。しかし話を聞いて欲しくて、拠り所が欲しくて母校に来ているのである。それを察してあげるべきだった。自分の気持ちばかりに目を向けるのではなく、相手の立場に立って謙虚に物事を考えていかなければならないと思った。
第二の方法として、視野を広くもつ必要がある。坂本龍馬は幕末の閉鎖的な社会の中にあって、日本のみならず外国にも目を向けていたことで知られている。子どもの頃はよく姉と一緒に土佐藩の船着き場を訪れて、長崎の出島から帰って来た人から土産話を聞いたり、世界地図や外国の製品を興味深く見ていたりしたそうだ。いまのように外の情報を容易に手に入れられない時代に世界に目を向けて視野を広くもち続けていたからこそ、その後の日本を導いていくことができたのである。
確かに、私達はまず自分の気持ちを何よりも大切にしなければならない。しかし、大切にするばかりでは考え方が自分中心になりがちで、ややもすると自分を過大評価しがちである。あなたは何も考えていないようだが、自分はこんなにも考え、悩み、苦しんだから偉いでしょう、といわんばかりである。それは単なる自己満足で、場合によっては相手も同じように思っていることが実は多いものである。「言いたいことは明日言え」という名言があるが、人付き合いにおいては「自分の気持ちは今日のうちに伝える」である。自分の気持ちを相手に知らせると同時に、相手の気持ちを知るところから人付き合いを始めなければならない。現代のように情報が溢れている状況でも、私達は自分自身だけの世界に、あるいは自分が生活している世界だけに閉じこもりがちである。私達は、もっと積極的に外の世界に飛び出し、自分を客観的に見れるように大きな翼をもつべきである。

　　　講評　　　hota

　定時に思い出してくださったとは、嬉しいです。(*^-^*)
　最後の結びを直して、よくなっていました。忙しい中、よく書き続けて頑張っていらっしゃいますね。いよいよ次回は進級テスト、これで高１過程も卒業です。

★「〜れる」という「ら」抜き言葉は、話し言葉としては今は認められいますが、書き言葉の場合はやはり以前のように「見られる」「食べられる」と「ら」を入れて書く方がよいです。