国語読解力は、あらゆる学力の基礎。問題集読書の復読と、読解検定の自主解説で確実に力がつく
国語読解力は、あらゆる学力の基礎。問題集読書の復読と、読解検定の自主解説で確実に力がつく。

昨日4215 今日2550 合計62325
作文教室の丘から 小学生、中学生、高校生の作文 (編集)

小学1・2年生   小学3・4年生   小学5・6年生   中学1・2・3年生   高校1・2・3年生

   「さようなら」よりも   如月 沙良

 今年も桜が散った。学校の正門の脇に聳えるカワズザクラ。太い幹から分離したとは考えられないほど繊細な枝先から、薄く淡い桃色をした桜がまた一枚、また一枚と散ってゆく。その有様は実際に目にした者しか分からぬ極楽。見る者全てを厳粛させるような雰囲気が、幹いっぱいに溢れんばかりに漂っていた。学校の桜が咲いて実感する、春。出会いと別れの春。六回目の春は、別れの時を迎える季節となった。
そして、この桜を、もう二度と見ることはないであろう学校のカワズザクラを、一人慈しみながら眺めている先生がいた。長い年月を経て刻まれた皺の寄った手にひらりと舞い落ちた花びら。その花びらは先生の心の奥深くに潜む感情をそっと震わせた。
 学校の図書館は、日本初でパソコンを導入した図書館で、よく、図書館目当てに訪れる人もいた。図書館に備え付けてある机や椅子、カウンターは全て手作りで、樹木の温もりがほんのりとするものであった。図書館には三万にも上る蔵書があり、日本で一番小さいピーターラビットの本や、絶版の本や、希少価値のある本など、様々な分野に及ぶ本が本棚に並べられていた。そして、地下にある図書館の壁には絵が描いてあるのだが、それは「鼠が過ごす四季」というテーマで全て下書きをし、塗装し、ある先生が一人で完成させたという。図書館の下駄箱も作り、中で読書をしながら寛げる小さな小屋も作り、正に指先で魔法を起こす奇跡の先生。名をK先生といい、学校の図書館を立派にするために多くの貢献をした先生である。先生は、学校に就職するまでに本に関する審査員をやられていて、幼いころから本に多大な憧れを抱いていたという。そして、学校に就任してからは図書館をもっと立派にさせようと様々な取り組みを行っていた先生は、まるでレッドカーペットに出演できるくらいユーモア溢れる面白い先生であった。
 K先生は月に一度ぐらい図書の授業を行う。図書では、お勧めの本を紹介してもらったり、教養を身につけたりする楽しい授業だ。中学年まではおっかない先生だなと思っていたのが、高学年になって印象が変わりと変わった。高学年になると委員会活動が始まる。私は、本が好きなので図書委員になった。委員会活動初日、副委員長と委員長を決め、掃除の副班長と班長を決めて、一段落したところで、先生がこんな提案をなさった。
「よし、委員長と副委員長は十秒間スピーチをしよう」
私は副委員長に選ばれてしまっていたので、一瞬頭の中が混乱に陥った。十秒間で、どれだけのことを伝えるか。どれだけ人の心を揺さぶれるか。このことをずっと考えていて、とうとう出番となってしまった。
「副委員長の如月です。みんなが図書館にもっと足を運びたくなるように工夫をし、みんなが快く利用できるように責任をもって図書館を作り上げていきたいと思っています。宜しくお願いします」
「ほう、委員長も副委員長も素晴らしいスピーチでした」
と熱をこめて拍手をした後、
「副委員長、お前スピーチをする前、どんなことを考えた」
私は正直に答えた。すると
「そう、その気持ちが図書館をよりよくするために必要なんだ。先生は、いつもみんなのことを考えて、図書館を運営している。図書委員は、学校の代表として、図書館を運営するんだ。自分より他人を優先しろ。そうしないと図書館は荒れていく。優しい気持ちがあったからこそ、学校の図書館はこんなに素晴らしくなったのだ。このことを忘れないでくれ。」
私は委員会活動初日にして、魂を揺さぶられた。そうか、今まで声も怖くて、本に関しては敏感で、ちょっと近寄りがたかったK先生の裏腹には、本に対する計り知れない愛情があったのだと実感したのだ。
 そんなK先生が去ってしまう。真のK先生の姿を知ってからの年月がまだ浅い。先生に聞きたいこともたくさんある。聞いてほしいことがたくさんある。もっと図書館を素晴らしくしてほしい。それが出来るのは、K先生だけなんだ。去ってしまうからこそ、初めてわかるK先生の本への愛情が。K先生の良さが。大切さが。先生との思い出を思い返す度に、目頭が熱くなる。私は、様々な別れを体験してきたけれど、これほど別れを惜しんだことはいまだかつてなかった。それだけK先生は学校にとって貴重な先生であって、ともに過ごしたかった先生だったのだ。それが分かったとき、私の心は張り裂けそうなほど悲しくなった。泣きたかった。先生に抱きつきたかった。
 さようならという言葉は憎い。この五文字で、楽しい思い出も泡のように儚く消えてしまう。だから、お別れはありがとうの方がいい。このことを教えてくれたのもK先生だ。そしてK先生は、別れの言葉でもさようならは一切おっしゃらず、「ありがとう。お元気で」とおっしゃった。
 別れは人間にとって運命である。けれど、出会えたことも運命。話せたことも運命。そして失って初めて、その人の価値がよくわかる。私はどんなにお金をかけた高級品よりもK先生の方が勝ちがあると思う

   講評   inoko

 如月沙良さん、こんにちは。
満開の桜に春のすばらしさを感じる今日この頃。でも、美しい桜も、そろそろ散り始める時期を迎えています。春は出会いと別れの季節。やがては散ってしまう桜に、重ね合わせることができますね。

☆ 歴史ある学校図書館の先生。沙良さんにとっては、図書館イコールその先生であったかもしれませんね。副委員長に選ばれたときの話では、先生の熱い気持ちが伝わってきます。本を愛し、図書館を愛し、図書館に自分のすべてを捧げていらしたのでしょう。
先生がいらっしゃらなくなっても、おそらく先生の精神はずっと残っていくのでしょうね。
人との出会いは、まさに一生の財産。沙良さんにとって、とても意味のある出会いの一つだったのだと思いますよ。



毎月の学年別「森リン大賞」作品集森リンの丘 
 自動採点ソフト「森リン」で上位になった作文を掲載しています。
 しかし、子供たちの実力はそれぞれ個性的です。上手に書けている子の作文を見せて、自分の子供の作文と比較しないようにお願いします。

作文教室受講案内   無料体験学習   作文講師資格 
Online作文教室 言葉の森  「特定商取引に関する法律」に基づく表示」  「プライバシーポリシー」 
お電話によるお問合せは、0120-22-3987(平日9:00-19:30)