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　　　個体と集団　　　Ａ.Ｌ

　宇宙で「私」という個体意識が一気に取り払われるような体験をしている。アポロ９号の乗組員だったシュワイカートの宇宙空間での仕事ぶりを宇宙船の中から撮影するはずだったカメラが突然故障し、動かなくなった。この瞬間、彼の心に、眼下に拡がる地球のすべての生命、そして地球そのものへの言い知れぬほどの深い連帯感が生まれた。シュワイカートが宇宙空間で体験したこの「私」という個体意識から「我々」という地球意識への脱皮は、今、この地球に住むすべての人々に求められている。
　もしも、古代の人々が個体意識で物を考えず、集団で物を考えていたら人類はここまで文明を築くことはできなかっただろう。なぜならば、集団で物を考えていたら、自分の利益を無理に求めようとしないため、人を支配したりしなかっただろう。しかし、自分の利益を追うと、人と争いが起き、争いに勝つために弓矢や槍、やがて投石器などの大型のものまで数々の道具や兵器を造りだしていく。こういう流れが現代まで続き、文明社会となっていったのだ。
　しかし、集団で物を考えることも大切である。秦に樊於期という将軍がいた。樊於期は、秦王政（後の始皇帝）に対し罪を犯したため、燕に逃亡し太子丹のもとに身を寄せた。そのため、樊於期の家族は全て殺戮された。そのため、樊於期は秦王を恨んだ。また、燕の太子丹も秦王に恨みを抱いていたため、復讐しようと思っていた。やがて、荊軻に秦王の暗殺を依頼する。その時に、荊軻は太子丹に対し「信用がなければ秦王に近づくことができません。そこで、樊於期の首を献上すれば秦王は我々を信用し、謁見を許すでしょう。」と、言った。しかし、太子丹はそれを許さなかった。そこで、荊軻は樊於期を訪れ「秦のあなたに対する仕打ちは深刻です。」と言った。樊於期は「私はそれを思うごとに苦痛が骨髄に徹します。しかし、どうすればよいのか分からないのです。」と言い、荊軻は「そこで、あなたの首を頂戴して秦王に献ずるのです。そうすれば、秦王は喜んで謁見を許すでしょう。そこで、秦王を刺し殺すのです。そうすれば、あなたの恨みを晴らすことができ、燕の恥をすすぐことができましょう。」と言った。すると、樊於期はみずから首をはねて死んでしまった。太子丹は深く悲しんだが、荊軻に樊於期の首をもたせ、秦王のもとへ行かせた。しかし、荊軻の匕首もわずかに秦王にかわされ、失敗に終わる。
　確かに、自分のことを考えるのも大切だが、集団のことを考えるのも大切である。しかし、一番大切なのは人に反感を与えないようにして、目的を達成することである。

　　　講評　　　kira