人生最大のサバイバル。 舞闘冠
「や、屋良っち!」
私にとって、この日、一番緊張した日になるとは、誰にも予想されていなかっただろう。
今からちょうど一週間程前、私は東京・有楽町にいた。
1月上旬から2月下旬にかけて、大好きな屋良さんはKinki Kidsの光一くんの舞台「SHOCK」に出演している。
2000年から始まった舞台で、毎年必ず行われる。
ものすごい競争率で『日本一、チケットが取れない舞台』だとも、言われている。
私も今年はどうしても行きたくて、色んな場所で申し込んだがどれも、見事にハズレ。
『頼む!当たって下さい!!』
そんな願いも儚く散り、私は暇な冬の日々を過ごしてしまっていた。
チケットが見事に取れず、落ち込んでいた私に母が言った。
「ねぇねぇ。ちょっと、提案があるんだけど♪」
何やら、面白いことを発見したようだった。
「何?提案って。」
私は母に近づき、その『提案』とやらを教えてもらった。
教えてもらったあと、私は硬直してしまった。
母はそんな私を見てニヤリと怪し気に笑い、言った。
「どう?いいよね♪!!そんじゃ、決定ってことで♪色々、準備しておきなさいよ♪」
この日から、すべては始まった。
そして、いよいよ提案実行の日がきた。
母と車で有楽町まで行き、ある場所へ向かった。
そのある場所というのは。そう、帝劇ビルである。
帝劇ビルというのは、色々な舞台が行われる『帝国劇場』と繋がっているビルのことだ。
ちなみに地下鉄とも繋がっている。
今回の目的はズバリ。
『屋良さんに会おう!!計画』と、いう何ともメルヘンチックなテーマである。
帝国劇場の楽屋口は、帝劇ビルの中にあり誰もが通る通路の脇に存在している。
光一くんは入り待ち・出待ちは禁止されているが、屋良っちのグループ・MAはハッキリ言って人気が無いので、
もしかしたら、手紙などの受け取りをしてくれる場合があるのだ。
その噂を耳に入れた母が、『舞台観に行けないかわりに屋良さんに会いに行こう』と、言ってきたと、いうことだ。
不安もあった私だが、それ以上に興味心というものがあったのかも知れない。
帝劇ビルに到着し、私は楽屋口付近で屋良さんを待っていた。
屋良さん狙いらしきファンの人も、2、3人並んでいた。
私もその列に入り、屋良さんが来るのをドキドキしながら心待ちしていた。
屋良さんの誕生日が2月1日で、乙女の日・バレンタインデーは2月14日。
大体、同じ期間だったので屋良さんにプレゼントを渡そうと思っていた。
屋良新聞という、謎をときめくものと、「Yaracchi」と文字が入っているストラップと、バレンタインのチョコレート。
それから、のどが悪い屋良さんの為にのど飴・そして手紙。
まるで、福袋のような状態だった(笑)。
それらを入れた青の袋を大事に持ち、屋良さんを待っていた。
2、3時間も立ちっぱなしで待っていた私は段々、疲れが出てきてしまった。
眠気と緊張が混ざり合った、気持ち悪い気分の中、私は震えが止まらなかった。
『早く、屋良っち来てくれーっ!!』
心の中で、私は叫んでいた。
前には変なおばさん達がいるし、暑いのに寒気がするし、もーやだ・・・
今に倒れてしまいそうな状態で、私の身は危機に達していた。
ウトウトし始めてしまった頃、私の前にいたおばさん2名がいきなり、自分のバックに手を突っ込み、
何かを探し始めた。
私は「もしかして。。。」と、殺気のようなものを覚え、目をパッチリ開いた。
目の前には大大大大大好きな屋良っちが、たくさん荷物を持って立っていたのだ。
きちんとセットされていた銀色と黒の短い髪の毛・サングラス。
『貴方、ガクトさんですか。』と、聞きたくなるほど、凄いオーラを背負っていたのだが
それ以上に『近づくんじゃねぇ』オーラがバンバン出ていた。
私はそんな恐ろしい屋良さんを見て、驚きもあったが、やっぱり屋良さんは本当にカッコ良かった。
屋良さんは最前列のおばさん達から、手紙を受け取り一人ずつ話を聞いてくれていた。
そんな様子を見ていて、私は本気で足がガタガタと震えだし、指先も震えてきてしまった。
もちろん、口もかすかに震えてしまい、『どうしよう、どうしよう』とパニくってしまっていた。
しかし、屋良さんはとってもクールで最前列の人に質問されていても、
『え〜・・・いや・・・』と、適当な返事をしその人の目を見ようともせず、そっぽを向いていた。
屋良さんのそんな冷たい態度に私は余計、不安になってしまい、また震え始めてしまった。
『屋良っちにあんな冷たく接しられたらどうしよう。』
『屋良っちに嫌われちゃったらどうしよう。』
涙が出そうになるほど、怖くなり私は順番がくるまで俯いていた。
私の前にいた人が屋良っちに手紙を渡し終わり、過ぎ去っていった。
私と屋良っちを邪魔するものは何も無くなり、私は屋良っちと正面から向き合った。
『もう、やるしかないっ!!!急いては事を仕損じるって言うじゃない!落ち着いて、自分!頑張れ、自分!』
私は覚悟を決めて、顔をしっかりとあげた。
そして、サングラス越しの屋良さんの眼をしっかり見つめた。
屋良っちは相手が子供だったせいか、少し驚いている様子だった。
私は軽く深呼吸をして、屋良っちに言った。
「あのっ!『SHOCK』はチケットが取れなくて観れないんですけどっ」
「はい」
「それでも、私は屋良っちが大好きなので、ずっと応援してます!!
誕生日とバレンタインのプレゼントです。受け取ってください。」
「有難うございます」
数秒だったが、世界で一番大好きな屋良っちと会話できたことが本当に嬉しかった。
そして、何より私が屋良っちに話しかけているときに屋良っちが「フ」と、笑ったことに驚いた。何故、彼があの時笑ったのか、私は今でもわからない。
屋良っちはちゃんとプレゼントを受け取ってくれて、最後軽くお辞儀をしてくれた。
本当に本当に嬉しくて、幸せすぎて、屋良っちが楽屋へ入っていった直後、私は泣いてしまった。
その後、駅のトイレの中で涙と鼻水をトイレットペーパーで拭いていた(笑)。
最初は本当に本当に緊張してしまったけれど、その緊張が成功へと変わったので私は緊張に感謝している。
私の友達は、KAT-TUNの亀梨が好きで、前に桜木町で見かけたという。
至近距離だったらしいが、あまりの緊張で話しかけることもできず、ただじぃ〜〜〜っと見守っていたという。
『それでも、大好きな亀梨を見れて本当に幸せだった!』と、彼女は笑顔で言った。
やはり、どんな人でも『緊張』というものはしてしまうんだなぁ、と、思った。
人間にとって、『緊張』とは誰でもしてしまうものであり、誰でも自分の為になることである。
「屋良っち、大好き♪!!」