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　　　スペシャリストの憂鬱　　　れもん

　ワールド・ベースボール・クラッシックで野球日本代表が優勝した２００６年頃から、もしくはもう少し以前から、プロ野球の世界では「スモールベースボール」が流行し始めた。スモールベースボールとは、ホームランなどのパワーに依存した欧米式の野球ではなく、盗塁や犠打など、小技を使って地道に点を重ねていこうという作戦である。そこで重宝されたのが、とにかく足の速さだけには自信のあるスペシャリストであった。打撃や投球にスランプはあっても、走塁にスランプはないと言われているように、確かに足の速さというのは、効果的な武器である。しかし、現在のプロ野球では、足のスペシャリストの超過現象が起こっているように思う。足の速い若手はたくさんいても、三拍子揃ったオールマイティーな選手は滅多にいない。試合の中で、チャンスを作り出すことは出来ても、そのチャンスをものにできる決定打を打つことができる選手が少ないのだ。私は一時の栄華で終わってしまいがちなスペシャリストに偏り過ぎていることが問題だと思う。（書き出しの工夫）（社会問題）
　その原因としては第一に、「個性」にこだわりすぎた日本の教育が挙げられるだろう。少子化の影響からか、最近は異様に子供が甘やかされて育っている現状がある。「個性」という言葉を盾に、自分の苦手なことや嫌いなことに取り組まなくても良い、ハードルのない教育が、不気味に整えられているのだ。私の学校では、高２から文系理系に分かれ、文系を選択した私は、非常に億劫であった理科の勉強が無くなった。勿論、それは非常に嬉しくもあるが、何か学ぶべきものの半分を失ってしまったようで、寂しい気もする。以前「女王の教室」というドラマが流行ったが、十代のうちに、ある程度の壁を経験することは、人生という長いスパンで考えたときに、非常に大事なことなのかもしれない。（複数の原因Ⅰ）（体験）
　第二に、自分と価値観の違う人とは関わらない、閉鎖的な環境が挙げあれるだろう。mixiなどでは、自分の興味のあるコミュニティーに参加し、自分と似たような趣味を持つ人とだけ関われるようなシステムになっている。勿論、それは楽しくはあるが、あまりにその環境に慣れすぎてしまうと、自分と異なる属性を持つ人と上手く人間関係を形成することができなくなってしまう。日本は「ヲタク文化」を持つ国として、世界でも名高いが、それは、良くも悪くも日本人の閉鎖的な一面を象徴した文化でもあるのだ。（複数の原因Ⅱ）
　確かに、得意分野を持っているスペシャリストは、その分野においては絶対に負けない強さがある。しかし、物事を長いスパンで捉えたとき、物事を形成する一部分は、ほんの一瞬でしかないのだ。幸福な人生とは、一時の栄華ではなく、終始一貫した些細な幸せの積み重ねである。だからこそ私は、スペシャリストの超過現象が問題だと思う。浮き沈みの激しいプロ野球界にも、安定した頼れるゼネラリストの登場を待ちたいものだ。（反対意見）（自作名言）（社会問題）

　　　講評　　　nane

　スペシャリストというキーワードにうまく結びつけて、自分の得意分野の話を書いたね。
　試験を採点する人の理解しやすさを考えて、もう少し早めに「スペシャリスト」のキーワードを出しておくといいかも。
　第二段落の原因は、体験実例を簡潔に入れて、いいまとめ方。
　第三段落の閉鎖的な環境は、これからも使える原因の一つになるね。
　「幸福な人生とは、一時の栄華ではなく、終始一貫した些細な幸せの積み重ねである」は名言になっているが、できれば主題に関連した言葉を主語として、「真のスペシャリストとは……」などとしていくといいよ。
　「……持ちたいものだ」だとやや傍観者的。もっと強く書いていこう。
　思考語彙は低かったけど、文章はよくまとまっている。これぐらい書ければいいよ。