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昨日44 今日3 合計47□

　　　「馬」と「鹿」　　　のんちゃん

　　　

　もう２５年以上も前のことです。私は英国にいました。その時、悪戯好きのM君に出会いました。M君は日本の大手アパレル会社のデザイナーで、ロンドンに派遣されてきていました。M君は習字が大変得意で、外国人によくＴシャツに漢字を書いて欲しいと頼まれていました。私も、M君みたいに習字が得意ならいいのにと思いました。m君は、最初は懇切丁寧に、「誠」とか「仁」とかいう文字を書いてあげていました。しかし、だんだん飽きてきて茶目っ気を出したようです。あるイギリス人の青年に請われて書いた文字は、何と「親不孝」。この青年は、意気揚々とこのＴシャツを着て、ロンドンの街角に消えていきました。英国の若夫婦も、ペアー・カップを差し出して、M君に漢字を所望しました。ミキ君は、
「あなたがたは、動物が好きですか？」
と、聞きます。ご夫妻は、頷きます。ミキ君がご主人のために書いてあげた漢字は「馬」。奥様のために書いてあげた漢字は「鹿」。M君は、
「それぞれ、HorseとDeerという意味の漢字ですよ。可愛いでしょう？２つ並べて置くと、日本ではとても良い意味で、幸運をもたらしますよ。」
と、神妙に、でも私に目配せをしながら話します。ご夫妻は嬉しそうです。アー、どうしましょう？これではまるで詐欺のようです。あのご夫妻は、今でも「馬」と「鹿」のカップ、仲よく並べているのでしょうか？それから、ここにはとても恥ずかしくて書けませんが、M君は
「部屋から月が見えるとても美しい漢字だよ。」
と言って、ひどい漢字をＴシャツに書いていました。ツキ篇の漢字です。気がついた方は赤面してしまいます。常識を疑われるでしょう。でも、ご注意ください。東京でも、とても変な意味の英語が書かれたＴシャツを意気揚々と着込んだ青年が闊歩していますよ。

　　　講評　　　tama

　日本でも「漢字ブーム」などと言われていますが、おしゃれなロンドンの街では２５年以上も前から小さなブームを巻き起こしていたようですね。「大手アパレル会社のデザイナー」であるMくんが書いてくれるというのですから、きっと現地のみなさんは、目を輝かせておられたことと察します。しかしMくんのお茶目ないたずらには、正直言って感心してしまいました。そばで見ていたのんちゃんは、冷や汗ものだったと思いますが…。しかしたとえ文字の意味がわかったとしても、ご夫婦はペアカップを見るたびに、若い頃の愉快な思い出話と笑い飛ばしておられるような気がします。
　Mくんが書いたという「ツキ篇の漢字」。いろいろ想像してしまいますが（笑）、デザインとして見ると、若者には受けるかもしれませんね！？

【声顔動作のようす】　得意げに文字を書くMくん、手にしたＴシャツやカップに満足している青年とご夫婦、そして彼らを見ているのんちゃんの様子が手に取るようにわかり、文章の中に入り込んでしまいました。

◎　題名もシンプルでありながら、ユニークです。