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記述力よりも現実的な作文力  2019年4月6日  No.3671
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 ある大手の進学塾の国語科の責任者という方が教えている「記述力アップ講座」というものを見ましたが、方法論らしいものは何もありませんでした。
 ただ、何しろたくさん書くことに尽きるという説明でした。
 これは、どこの学習塾でも同じだと思います。

 このことを見てもわかるように、学習塾の記述力対策というのは、あってもないようなものです。
 それは、なぜかというと、入試問題の記述問題の評価の基準自体が、あってもないようなものだからです。

 前にも書きましたが、ある東京都の都立中高一貫校を受検する小学6年生の生徒が、電話で相談してきたことがありました。
 それは、その子の書いた記述問題の解答が、その学校で出されている模範解答とかなり違うので、どうしたらよいかという質問でした。
 そこで、その子の書いた解答と、その学校で出されている模範解答とを見てみると、その子の書いた解答の方が、ずっと内容的にも表現的にもレベルの高いものだったのです。
 学校で出している模範解答ですから、その学校の国語の先生が、しかも責任ある立場の人が書いたのだと思います。
 それが、小学6年生の国語力のある生徒の解答よりも、一段下のレベルだったのです。

 このことは、つまり記述問題には、明確な解答の基準がないということです。
 解答の基準がないから、対策の方法論も生まれてこないのです。


 言葉の森で記述問題の指導をするようになったのは、ある年、東大を受ける生徒が、記述対策をしてほしいと言ってきたことがきっかけでした。
 東大の国語の現代文には、選択問題はほとんどありません。すべて短い記述式の問題です。
 これは、国語の問題に限らず、理科も社会も同様で、○×で答えられるような問題ではなくほとんどが記述中心の問題構成になっているのです。
 したがって、東大の進学を目指す中高一貫校の国語の試験問題も、記述問題が中心です。

 そこで、記述対策の方法論として、「対比して書く」ということを指導したのです。
 これは、「小学生のための読解・作文力がしっかり身につく本」(かんき出版)にも10編ほど例を載せています。

 「対比して書く」とは、どういうことかというと、記述問題の答えを、「○○は、Aである」と書くだけでなく、文中に隠れているBという対比される概念と結びつけて、「○○は、BではなくAである」と書いていくことです。
 この対比には、さまざまなパターンがあります。「BではなくAである」「「確かにBもわかるが、しかしAである」「BでありながらAである」「BだったものがAになる」「Bだと思っていたものがAだった」など。

 記述問題で問われるような部分は、話が屈折しているところです。
 物語文で言えば、「うれしかったが、普通の顔をしていた」とか、反対に、「悲しかったが、笑顔を見せた」というような場面です。
 だから、対比して考えるという方法論で書くと、記述の文章の輪郭がはっきりして、表現の焦点が絞られてくるのです。
 これは、説明文の問題の場合も同様です。

 しかし、これは主に大学入試に関して言える話で、中学入試の場合は、別の要素が加わります。
 中学入試の場合は、抽象的な語彙を使って書く力があるかどうかが大きな差になります。
 それは、小学6年生では、抽象的な語彙を自由に使えるかどうかが国語力の最も大きい差になっているからです。

 では、その抽象的な語彙力の対策はどうしたらよいかというと、抽象的な語彙や考え方が書かれている難しい本を読むことです。
 小学校高学年で難しい本を楽しく読めるようになるためには、小学校低中学年でやさしい面白い本をたくさん読んで読む力をつけておく必要があります。
 だから、国語力の本当の対策は、国語の問題集を解くことではなく、小さいころから読書に親しんでおくことなのです。


 さて、記述問題が国語の試験で取り上げられるようになったのは、○×式の入試に対する反省からです。
 2020年の入試改革でも、現代文の記述試験をどうするかということが話題になっていましたが、私はこの記述問題の採用はうまくいかないと思います。
 それは、記述問題ということ自体が、中途半端な位置にあるものだからです。

 ○×式の選択問題の対極にあるのは、記述問題ではなく、作文小論文問題です。
 ○か×かで答えるよりも、数百字の文章で答える方がずっと考える力を使います。
 数百字というのは、600字から1200字、つまり人が普通に1時間で書けるような量の文章です。

 しかし、数百字の文章を書かせる問題を出せば、採点する側が対応できません。
 また、作文試験を課している学校のほとんどは、その数百字の文章を評価する基準を持っていません。
 それは、記述問題の評価の基準がないのと同じです。

 ○×式の問題では考える力が育たない、しかし600字から1200字の作文試験では評価しきれない。
 そこで、妥協の案として、中途半端な50字とか100字の記述問題が出てきたのです。
 中途半端なものは、最終的にはどちらかに吸収されます。
 だから、記述問題というものは、将来なくなっていきます。

 その記述問題をコンピュータで採点するというのも、また間違った方向です。
 50字や100字の記述問題の採点では、生徒の学力と記述の点数との誤差はかなり大きくなります。
 採点基準を明確にすればするほど、コンピュータ採点の対策がしやすくなり、考える力よりもうまく答えるコツを身につけた方が有利になります。

 だから、せっかくコンピュータを採点に利用するならば、機械的なアルゴリズムではなく、深層学習を使った採点にする必要があります。
 その深層学習を使った評価に最も適しているのは、短い記述問題ではなく、長い作文問題なのです。
 ある意味で、長い作文であればあるほど、その生徒の真の学力は正しく評価されます。
 一日に長い作文を書かせるのが難しいのであれば、日を置いて複数の作文を書かせる形でもいいのです。

 近い将来、この深層学習を使った作文評価ができるようになります。
 すると、中途半端な記述問題というものはなくなります。
 ○×式の問題は、基礎学力をチェックするために残りますが、記憶力に頼るような瑣末な問題はなくなります。

 だから、今の小学生は、記述問題の対策を考えるよりも、まず本を読むことと、作文を書く力をつけておくことです。
 記述力よりも現実的な作文力というのは、評価の面でも、勉強の面でも言えることなのです。

 ただし、言葉の森の自主学習コースでは、国語の問題集読書のあとに、50字から60字の記述練習をしています。
 それは、今の時点では、まだ自分の考えを50字から100字で簡潔にしかもすばやく書く力は必要とされているからです。

233-0015 233-0015 横浜市港南区日限山4-4-9言葉の森オンラインスクール 電話045-353-9063
 
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 コメント欄

森川林 20190406  
 選択問題の対極にあるのは、作文問題です。
 しかし、作文問題では時間がかかりすぎて評価しきれないので、妥協の案として中途半端な記述問題が出てきたのです。
 だから、いまだに記述問題の明確な評価の基準というものはありません。
 基準のないもので点数をつけられるのですから、生徒の方も大変です(笑)。

nane 20190406  
 記述問題に明確な評価の基準がないのと同様に、作文問題の評価にも基準はありません。
 いま、入試に作文試験を課している学校のほとんどは、評価の基準がないまま点数をつけていると思います。
 教育には、誰にもわかる明確で客観的な基準が必要なのです。

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