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新たな知のパラダイム(その4) as/1129.html
森川林 2011/01/19 10:34 
修 削


 デカルトの分析哲学は、個の哲学であり、有の哲学でした。それは、物が個として有るというところから出発していました。

 例えば、石を投げたとすると、その石は物として有り、その物を分析すると、質量と速度と方向に分けることができるとします。有る物を分析して、分析しきれなくなるまで分けていったところに、抽象的概念や定理があります。抽象的概念はデジタル的なものなので、数値として取り扱うことができます。こうして、ニュートンの物理学をはじめとする科学の世界は、分析哲学の土台となったのです。

 この科学は、物理学にとどまらず、社会科学や、政治、経済、産業にも発展していきました。ルソーの社会契約論、産業革命、進化論、植民地主義などは、もとをたどればこの「有の哲学」にもとづいて生まれてきたものです。

 ヨーロッパ諸国が植民地を拡大したとき、ヨーロッパ以外の地域では、その「有の哲学」に対抗できる知的枠組みを持っていませんでした。そのため、植民地主義はきわめて短期間に世界中に広がりました。

 有色人種の国の中で、ただひとつ日本だけは、かろうじて和魂洋才として「有の哲学」を自分の文化の中に移植しました。それまでおだやかに全く別の知的文化的枠組みで暮らしていた日本は、欧米の野蛮な植民地主義に対抗するために、自らも野蛮なヨーロッパ文化の仲間入りをせざるをえなかったのです。

 しかし、日本はもともと野蛮には向いていませんでした。和魂洋才の才の部分はヨーロッパの科学技術として消化吸収することができましたが、魂の部分は日本の文化に取り込むことができませんでした。それは、自分と相手を対立するものと見て、相手を単なる対象物として扱う文化です。

 例えば、奴隷の文化や、肉食の文化や、策略の文化は、日本人にはなじまないものでした。肉食は、その後、明治政府の政策によって広がりましたが、日本人の多くは、今も食用のために動物を殺すことに抵抗を持っています。また、ペット犬などでも耳を切ったり尻尾を切ったりする文化は、もともと日本犬にはありませんでした。それは、日本が「有の文化」とは対極にある自他同一視の共感の文化、思いやりの文化を持っていたからです。それを「有の文化」と対比する意味で、「無の文化」と呼べる思います。

 有の文化を象徴する言葉が、デカルトの「我思う故に我あり」だとすると、無の文化を象徴する言葉は、鴨長明の方丈記にある「(人の世は)水の泡にぞ似たりける」です。これは、インドの空の哲学、中国の老子の無為の哲学と共通するアジアの世界観で、更には、アメリカインディアンや南米のインディオの世界観とも共通するものの見方でした。

 一本道で、デカルトが「我思う故に我あり」と言いながら歩いてくるところを、反対側から鴨長明が「水の泡にぞ似たりける」と言いながら歩いてきて、二人がぶつかりそうになったとき、先によけるのは長明の方でしょう(笑)。そして、その一本道に食べ物と棍棒があり、二人とも空腹であったとき、先に棍棒を手に取るのはデカルトの方だったでしょう(デカルトさんごめんね(^^ゞ)。これが、ヨーロッパが、世界中の有色人種を支配した構図だったのです。(つづく)



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