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日本が目指す新しい産業。その前提としての国語力 as/1193.html
森川林 2011/03/11 12:02 
修 削


 製造業は、今急速に新興国に追い上げられています。中国の工業国家としての台頭に伴って、日本がこれまで掲げていた製造業による経済発展の方針は、大きく軌道修正を迫られています。

 しかし、日本の新産業は、観光業や小売業などのサービス産業ではありません。サービス業は、思いやりに富んだ日本人の持ち味を生かせる分野ですが、そこには創造性がありません。サービス業は、他人に尽くすだけの産業です。日本がいったんサービス産業中心の国家になれば、観光産業に依存する国が衰退していくように、そこから抜け出ることはできなくなります。

 製造業を高度化することによって、日本の製造業を守るという考えもありますが、高度化できる製造業の雇用創出力は限られています。1億2千万人の日本人の雇用を高度な製造業だけでまかなうことは難しいでしょう。

 もし日本が、海外との貿易を行わず、鎖国的な経済でやっていけるのであれば、国内でお金を回す仕組みを作るだけで経済は豊かになります。しかし、国際経済を否定することは現代ではできませんから、世界にも通用する価値を持ち、多くの国民を雇用できる新しい産業を創造していく必要があります。

 それが創造産業です。企業でも個人でもかまいませんが、何か新しいことを発案し、その創造によって日本社会に貢献することが期待される知識や技術を発掘し、その知識や技術を国が買い上げ、すべての日本人が自由に利用できるようにするのです。その買い上げの金額は、もちろん半端なものではありません。オリンピックで金メダルを取ると、それだけで一生安泰に暮らしていけるという国がありますが、それぐらいの金額を保証します。これが、日本の新しい産業です。その創造産業には、農業も、製造業も、サービス業も含まれます。大事なのは、物品やサービスの対価によって成り立つ産業ではなく、創造の対価によって成り立つ産業だということです。

 しかし、この産業が、日本の国民的産業として成り立つためには、大多数の日本人が創造的にならなければなりません。その創造性の根底にあるものは、日本語の理解力と表現力です。今の日本の社会で、学力の底辺にいる子供たちは、何よりも国語力が不足しています。それらの子供たちが自立して、社会全体の創造に参加できるためには、全教科を満遍なく教える教育をやめて、国語の読解力だけに焦点を絞った教育を行っていく必要があります。国語の読解力の低下した子供たちが、もしこのまま成長して社会人になれば、そのときに日本の国が支払うコストは膨大なものになります。そのコストを先取りするためにも、子供たちの国語読解教育に最重点を置いていく必要があります。その方法は、少人数制で本を読ませる教育です。

 ところが、読解力だけが必要な水準に達しても、そこから自動的に創造性が生まれるわけではありません。理解とは静的なものですから、そこから創造という動的なものにジャンプするためにはもうひとつのステップが必要です。それが、特定の知識や技術の習熟です。基礎教養として、多くのことを理解しているだけでは不十分で、それに加えて、その人でなければできないような特定分野の習熟が必要になるのです。知識や技術には、時間をかけることによって、その知識や技術が自分の手足のように自由に使えるようになるという面があります。この時間的な要素が、身体や感情や言語という不完全なものを持つ人間の優れた特質です。例えば、ある作業を繰り返していると指にタコができるということがあります。このタコが、身体の持つ時間性です。知識にも、似たような面があります。単に知識を知っているだけでは、百科事典をそろえていることと変わりません。タコができるぐらいに知っていることによって、そこから新しい創造の可能性が生まれてきます。

 これまでの教育は、記憶力の再現を中心とした教育でした。しかし、その教育は大きな曲がり角に来ています。先日、大学入試で、携帯電話とインターネットを利用したカンニングがありましたが、こういう形のカンニングは、今後防ぐことができなくなります。調べてわかることや、人に聞いてわかるようなことがいくらできても、それは価値あることではないというふうに、評価の根本を変えなければならないのです。では、何が価値あることかといえば、それは創造です。その創造のための教育としてこれから必要になるものが発表の教育です。つまり、文章でも、音楽でも、絵画でも、工作でも、又はさまざまな学問分野でも、自分の作ったものを表現することが教育の中心になります。知識や技術の土台は、その発表のための前提として必要なのであって、知識や技術自体に価値があるのではありません。

 全国民が、幅広く満遍なくさまざまな知識、技術を身につけるとともに、その人の個性に応じたある特定の分野に習熟し、その習熟をもとに個性的な創造を行うという発表の教育がこれから必要になってきます。そして、理解力の中心が国語的な読解力であったように、発表の教育の中心は国語的な作文力になるのです。



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