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未来の学校の夢

 言葉の森のホームページで2010年10月から11月にかけて掲載した記事です。


寺子屋の復活

 未来の学校の夢を今見ました。夢の中で、自分が中学生だったころに戻っていました。しかし、世の中だけは未来の社会になっていたようです。
 なつかしい友達のK君がいました。K君に、「なんだか過去から来てしまったみたい」と話すと、K君は、なぜかすぐに納得してくれました。
 学校の授業は、早めに終わりました。午後2時か3時ごろです。みんな、思い思いに家に帰ろうとしています。
「あれ、部活なんかないの」
と聞くと、K君は、
「もちろん、そんなのはないよ」
と言いました。
「学校の先生だって早く帰りたいし、スポーツをすることを強制されたり、試合やコンクールに向けて競争をさせられたりするのは嫌だから、部活は趣味のものを除いてほとんどなくなったんだ」
「ふーん」
 では、塾や習い事やスポーツクラブなどが早めに始まるのかと聞くと、そういうものもほとんどないそうです。
 昔の子供たちの生活は、学校の部活、塾の勉強、スポーツクラブの練習、家庭のゲームなどが中心でしたが、今の子供たちの活動は、近所の子供どうしの遊びや勉強や読書や仕事などが中心になっているということです。
 不思議に思いながら、K君についていくと、一軒の家に入っていきました。そこは、一種の寺子屋のようになっています。
 近所のいろいろな年齢の子が、思い思いに集まっています。小さい子は、おにごっこなどをしています。中に、そういう小さい子供たちのリーダーになっているような少し大きい子が入っています。
 もちろん、遊びは自由に参加できるようで、数人の子が集まって、庭に放し飼いになっているヤギやウサギにえさをやっている光景も見えます。何をするのも自由なようです。
 部屋の中に入ると、数人で集まって勉強しているグループがありました。教える先生などは、特にいないようです。
 勉強していてわからないところがあると、一緒のテーブルにいる友達に聞いたり、よそのテーブルで勉強している高学年の子に聞いたりします。
 ネットは自由に使えるらしく、中には息抜きのゲームをしている子もいますが、たいていの子は友達どうしで遊ぶ方が楽しいようです。
 大人も、いるにはいます。しかし、子供たちに何かを指示することは、ほとんどないようです。この寺子屋の主人らしい人は、のんびり本を読んだり、小さい子と遊んだりしています。
 寺子屋は、いろいろな年齢の子供たちで運営されているので、大人は特に普段は何もしなくていいのです。
 高校生のグループになると、自分たちで計画して世の中の仕事体験に行くようです。いろいろな仕事を経験するなかで、自分が何に向いているかだんだんわかってくるので、それを大学進学の参考にするようです。だから、寺子屋の中には高校生はあまりいません。
 大学生も、ほとんどいません。専門の学問は特定の大学でやるので、その大学のある都会に出て行くのです。
 しかし、時には寺子屋に遊びに来る大学生もいます。みんな近所で昔からの幼なじみらしく、ニックネームで親しげに呼び合っています。
 こういう寺子屋は、ほかにも近所にいくつかあるようですが、どの寺子屋に行くかは子供たちの自由で、中には時々行く場所を変える子もいます。しかし大部分は、自分にとって最も居心地のいいところにずっといるようです。
 夕方になると、みんな思い思いに家に帰り出しました。兄弟の少ない子は、よその家に泊まり合いをすることも多いようです。

動物や植物との共存

 僕は、その日、K君の家に泊まることになりました。
 家に帰る途中の道を歩いていると、街路樹に何か実がなっているようです。
 K君はジャンプしてその実を取ると、一つ僕にくれました。
 街路樹には、どこも実のなる木が植えられていて、誰でも自由に取って食べていいようです。僕はもらったカキの実にガブリとかぶりつきました。
「おなかが空いているときに便利だね」
と、僕が言うと、K君は、
「もう一本隣の道には、ナシがなっているんだ。だから、日によって通る道を変えるんだ」
と言いました。僕は、今度はナシの道を通ろうと思いました。
 K君の家に行く途中に、大きな公園があります。その公園を横切ろうとすると、1匹のヤギがついてきました。
「えー! こんなのいるの」
「うん、いろいろな動物が放し飼いになっているんだ」
 見ると、公園にはニワトリやアヒルやウサギもいます。
 K君は突然近くの草むらに入ると、しばらくして両手に卵を持ってきました。
「この草むらには、よくウズラやニワトリが卵を産むんだよ」
「そんなの、取っていいの」
「まあね」
 K君はにっこり笑いました。この卵は、夕飯のおかずになるようです。
 公園には、シートを広げて食事をしている家族もいました。
「何だかお花見みたいだね」
と、僕は言いました。
 どこの家でも、ときどきそういう外食をすることがあるようです。未来の世界では、外食というのは、ファミリーレストランに行くことではなく、戸外で食べることになっているようでした。
 そうこうしているうちに、家に着きました。
 ドアの前で、「ただいま」と言いましたが、返事がありません。まだほかの家族は帰っていないようです。
 K君は、ドアの横にある大きな木を指さしました。
「この木の枝をつたって窓から入ることもできるけど、今はあまりやらないんだ」
 確かに、大きな枝が二階の窓まで延びています。僕は、ちょっとやってみたい気がしました。
 K君は、すっとドアを開けると、「さあ、入れよ」と言いました。
「あれ、ドアは開いていたの」
「うん、カギはないんだ」
 未来の家は、どこもカギをかける習慣がないようです。
「泥棒なんていないの」
と聞くと、K君は少し考えてから言いました。
「うーん。でも、自分だって人のうちに入って泥棒したいと思わないでしょう」
「確かにそうだけど、お金に困っている人がいたら、泥棒もするんじゃないかなあ」
「それは、困っている人がいるからだよ。困っていたら、そう言えばみんなが助けてくれるから、泥棒するほど困る人はいないんだ」
 僕は、なるほどと納得しました。

泥棒と警察のいない国

 未来の社会では、レジに人がいない店もよくあるので、自分で商品のバーコードを読み込んで、表示された金額を払ってくることも多いようです。
「少なめに払っていくなんて人はいないの」
と、僕が聞くと、
「だって、もし自分がお店をやっていて、少なめに払われたら嫌でしょう」
と、K君は当然のように答えました。「もし、自分が相手だったら」という考え方をみんなが自然にしているようです。
 警察というのも、とっくの昔になくなっているということでした。悪いことをする人がほとんどいないし、いても、みんなで事情を聞いて対処するので、警察の仕事というのがなくなったそうです。
 法律も、常識でわかるくらいのものに簡素化されて、しかも年々減っているようです。
「法律や警察がないなんて、不思議な社会だね」
と、僕が言うと、
「だって、家族の中だってもともとそんなのないじゃない。家族が広がったのが社会だと思えば、不思議なことなんてないさ」
と、K君は言いました。
「こういうのは、世界中で実現しているの」
と、僕が聞くと、これも不思議なことに、こんなふうになっているのは日本だけのようです。
 世界のほとんどの国は、まだ警察もあるし法律も複雑で、しかも争いがなかなか絶えません。だから、治安のいい日本の社会を見学しに、毎年世界中の国から視察団がいくつも来るようです。
 しかし、なぜ日本だけが、このように正直な人が多く、しかも、他人に対する思いやりのある人が多いのかまだよくわからないようでした。(しかし、その後の研究によると、左脳で感情や自然の音を処理する日本語脳にその秘密があるようだということでした)
 家の中に入って、K君としばらくおしゃべりをしているうちに、K君のお父さんやお母さんが帰ってきました。
 みんなが集まると、夕方はテレビなどを見ずに、もっぱらみんなでおしゃべりです。
 子供が小中学生のころは、父親も母親も残業や転勤がなく、いつも早く帰ることができるそうです。社会のルールでそう決まっているということでした。
 子供も、夕方、塾や習い事に通ういうことはありません。そういうのは昼間のうちに行けるからです。
 学校は、勉強を教えてもらいに行くところではなく自分で勉強をしに行くところなので、自分で自由に行く日を決めることができます。
 特別なことを勉強したり習いたいからという理由で塾や習い事に行く人は、学校の中にそういう場所があるので、そこに行きます。
 しかし、子供が自由に何をしてもいいとなると、全体の勉強のバランスがくずれてしまうこともあるので、ときどき勉強全体のコーチのような人が、子供や両親と相談して、数ヶ月のおおまかな勉強のメニューを提案します。子供は、そのメニューを参考にしながら、自分の好きなことを中心に自由に勉強や習い事の予定を組んでいます。
 だから、学校は行きたいときに行けばいいのですが、ほとんどの子供は、毎日決まった時間に学校に通います。友達といる方が楽しいし、毎日同じペースで生活した方が楽だからです。
 ところで、未来の社会の不思議なところは、子供が学校で勉強しているのと同じように、お父さんやお母さんなどの大人も、みんな熱心に勉強や習い事をしていることです。
 実は、これが未来の日本の社会の豊かさを生み出しているひとつの大きな理由なのでした。

修行で豊かになる社会

 未来の社会では、子供が学校で勉強するのと同じように、大人もみんな熱心に勉強や習い事をしています。会社が終わると、ほぼ毎日必ず何かの習い事をしてから家に帰ってきます。
 未来の社会では、人間が学校を卒業して就職するようになると、すぐにそのような習い事をいくつも始め、そこからだんだん自分の好きな習い事に絞っていき、これと決めたものはそれから10年も20年も続けます。
 すると、40歳ぐらいになると、自分がその習い事を教える仕事もできるようになってきます。そこで、みんなそれぞれに工夫して、自分がこれまで身につけたものを組み合わせて教えるので、そこで、新しい習い事の創始者になる人も多いようです。
 そうして、勤めていた会社を定年でやめるころになると、もう自分ですっかり新しい仕事を教える準備ができているそうです。
 K君のお父さんは、そう教えてくれました。
 僕は、昔、中学の社会科の授業で、「日本の経済発展にはこれから内需が必要だ」ということを習いましたが、日本人どうしがお互いに習い事を教えるというのが、未来の新しい内需になっているようでした。
 しかも、こういう習い事は、何十年も続けてきているものなので、中には普通の人の及びもつかないような高度な技能を持つ人もいます。そういう人は、人間国宝のような称号が与えられて、4年に1回開かれる文化オリンピックで表彰されるそうです。
 僕がいた過去の日本の社会でも、碁や将棋の名人、包丁一本の料理職人、作詞家や作曲家など、自分の持っている技術で生きている人がいましたが、未来の社会では、それがいろいろな分野に広がっています。
 中には剣玉名人のような、一見簡単にできそうなものもありますが、それを何十年もきわめている人がいるので、今では高度な芸術的スポーツのようになっているということでした。
 昔の日本の社会では、みんなが「欲しい」と思うものは主に「物」でしたから、「物」を買って豊かな生活を送っても、収入は別のところで働いて稼いでこなければなりませんでした。すると、働けなくなると収入がなくなってしまいます。
 「物」の社会では、買えば買うほどお金が減ってくるので、みんなはなるべくお金を使わないようにしていました。
 しかし、未来の日本の社会では、みんなが「欲しい」と思うものは、「物」よりも自分の「修行」になっています。自分の「修行」は買っているうちに、自分の能力になってきます。すると、今度は、その能力を売ることができるようになります。
 このようにして、「修行」の社会では、お金を使えば使うほど自分の能力が増えてくるので、みんながなるべくお金を使うようになっています。貯めておいても自分の能力は増えないからです。
 こうして、「物」の消費社会から、「修行」の自己投資社会に世界で最も早く移行した日本の社会は、今では世界一豊かな国になっているということでした。
 日本が、世界で初めてこういう修行の社会になったのは、日本人が勉強好きだということが大きな理由のようでした。

生き物みんなが家族

 夕方の家族のお喋りは、大いに盛り上がります。お父さんは、いま取り組んでいる仕事の話をいろいろしてくれます。お母さんも、よく勉強していて、お父さんの専門分野についていろいろな質問をします。
 お母さんも、自分の趣味の仕事を持っているので、その話をすると、今度はお父さんがいろいろな質問をします。もちろん、ここにK君も加わります。夕方のお喋りは、にぎやかな討論会のようでした。
 僕は、こんなに面白い話を毎日していれば、テレビやゲームなんていらないなと思いました。
 夕飯の食卓は、野菜が盛りだくさんです。ほとんどは、自宅で育てているもののようです。
 庭がなくてもベランダや窓ガラスで栽培できる野菜が増えているので、どこの家庭でも、野菜は自宅で作っているようです。
 肉類はあまり食べないらしいので、僕が、
「どうして」
と聞くと、
「食べられる動物の身になったら、かわいそうだからだよ」
と、K君は笑いました。未来の社会の人は、他人ばかりにではなく、動物に対しても共感する気持ちを持っているようです。
 ちょうど社会全体が、他の人も他の動物も含めて、一つの家族のように相手のことを考えているから、わざわざルールを作ったり取り締まる人を作ったりする必要がないのだと思いました。
 僕は、日本の歴史を学んだとき、徳川綱吉が出した「生類憐みの令(しょうるいあわれみのれい)」を悪法のように教わっていましたが、未来の日本の学校では、綱吉の精神は逆に評価されているということでした。
 食事を始めると、窓からリスや小鳥が入ってきました。これらの小動物の中には、ベランダの巣箱で暮らしているものもいるようです。
 人間の間にまじって、リスや小鳥がテーブルの上には上がらずにちゃんと横で待っています。
 ペットとして飼われているわけではないので、つかまえたり手でさわったりすることはできませんが、手の届くぐらいの近さでみんなにぎやかにえさを食べていました。
 近所の家の中には、トンビやフクロウと一緒に住んでいる家もあるようです。
 寝る時間になっったので、ベッドに行こうとすると犬がついてきました。ゴンタという名前で、3歳のゴールデンレトリバーです。
 K君は、いつも犬と一緒に寝ているようです。
「今日は、君がゴンタと一緒に寝たらいいよ」
と、K君が言いました。面白そうなので、僕は、
「うん、ゴンタおいで」
と言いました。
 今日一日いろいろ新しい経験でくたびれたので、僕は、ベッドに入るとすぐに寝てしまったようです。
 朝、スースーという音で目が覚めると、僕の目の前に、寝ているゴンタの顔がありました。僕は、ちょっとふざけて犬の真似をして、ゴンタの鼻をペロリとなめました。ゴンタは、ぱちりと目をさましました。

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