ログイン ログアウト 登録
 人工知能に負けない学力を育てる Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
Onlineスクール言葉の森・サイト Onlineスクール言葉の森
記事 2604番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2025/12/21
人工知能に負けない学力を育てる as/2604.html
森川林 2016/06/17 19:04 


 昔の人工知能は、「強い人工知能」として作られていました。それは、「こういうことがあったら、ああいうことをする」という入力と出力のプログラムを人間がしっかり作り込むような人工知能だったのです。しかし、それでは、結局人間が予想できる程度のことまでしかできません。
 今の人工知能は、「弱い人工知能」として作られています。それは、正しいことも間違ったこともランダムに多様に行い、そこから確率的によい結果を生み出すものに次第に行動を収斂させていくという人工知能です。このやり方によって、人間が予想もできない優れた知能を発揮する人工知能が作られるようになってきたのです。

 今、スマートフォンでネットを検索すると、音声入力でかなり正確な入力ができるようになっています。なぜこのように正確な変換ができるかというと、それは言葉を正確に聞き取れるようになったからではなく、大量のデータベースをもとに文脈的にあり得そうな言葉を選択できるようになったからです。
 大量の知識や情報をもとに、最も妥当な判断をするという方向に、今の人工知能は発展しているのです。

 すると、近い将来、人工知能が人間の頭脳に取って代わる分野が出てくることが考えられます。それは、大量の知識をもとに、正しい判断をするという分野です。
 この大量の知識をもとに正しい判断するというのは、人間の優れた能力のように思われがちですが、実は人間にとってはあまり得意な分野ではありません。
 このためには,まずたくさんの知識を吸収しなければなりません。そして、その大量の知識を必要に応じて引き出してこなくてはなりません。要するに、頭がいいと言われるような人が得意なことと考えればいいのですが、そういう頭のよさは訓練しなければ育ちません。人間のもともとの自然に反して、たくさんの知識を覚えてそれを再現するという無理な練習をすることによって初めてできる能力なのです。

 無理な練習だから、人間には、勉強のよくできる人と、あまりできない人との差ができます。よくできる人は、その知識と判断を生かせる分野に進もうとします。
 例えば、今の時代で、大量の知識を吸収しそれらを必要に応じて引き出して判断することが必要な頭のよさが求められる分野は、大学の学部で言えば、法学部や医学部でしょう。だから、これらの学部は入るのが難しいと言われているのです。

 ところが、このような頭のよさは、弱い人工知能の最も得意な分野です。最初は大量のデータをもとにランダムな試行錯誤で判断するので、間違いも多いはずですが、やがて急速にその精度が増してきます。そして、やがて人間のその分野の最高に頭がよいと言われる人よりも、速く正確な判断ができるようになるのです。

 法律の条文を大量に記憶し、それを必要に応じて組み合わせて判断するというのは、人間よりも人工知能の方が得意になる分野です。同じように、疾病の現象や原因や治療法を大量に記憶し、それを症状に応じて判断するというのも、人間より人工知能の方が得意になる分野です。

 では、逆に、人間にできて人工知能にできない分野とは何でしょうか。法律で言えば、現在の世の中の問題に即して新しい法律を作り出すことです。医療で言えば、疾病の治療ではなく、人間の新しい健康を作り出すことです。つまり、創造する法律、創造する医療が、人工知能にはない問題意識を持つ人間だけができる分野なのです。

 同様のことは、他のすべての学問や仕事についてもあてはまります。これまでの「よくできる人」の「よくできる」能力ほど、人工知能に代替されやすい能力です。
 逆に、これまでは、「面白いことを考える」とか「ユニーク」とか「ちょっと変わっている」とか言われた、人間の能力のおまけのような個性と創造の分野こそが、人工知能に代替されない最も人間らしい能力として前面に出てくるようになります。

 では、そういう創造の能力は、どのようにして育つのでしょうか。それは、自分の欲望にこだわることによってです。
 今の世の中は、まだ完全とは言えないまでもセーフティネットに守られています。油断していたら、明日食べるものも手に入らないとい野生の動物のような世界ではありません。
 すると、その中で、ほどほどの満足でいいと思う人は、何も創造する必要を感じないでしょう。本当は、もっと辛いカレーを食べたいが、売られているものの最高がこの程度なら、それで満足しようと思える人は、より辛いカレーを創造する必要性を感じません。
 しかし、カレーについては、ほとんどの人はそれでいいのですが、人間は本来自分だけのこだわりを持つ分野を誰でも個性的に持っています。そのこだわりを大切にするということが、これからの教育の最も大事な要素になるのです。

 創造力を育てるためには、子供が多様な経験をする機会を作る必要があります。主要五教科だけがしっかりできていればいいというのではありません。学校の勉強に一見関係ない無駄な時間のように見えることも含めて、いろいろな経験を積ませる必要があるのです。
 そして、その子がこだわる分野を、ほどほどに抑えずに納得行くまで進ませることも必要になります。バランスよく生きるよりも、あることに熱中して生きる方が尊重できるという気持ちを持たせるようにするのです。
 また、世の中はそんなに甘いものではないとか、自分の分をわきまえろとか、みんながやっているのと同じ安全な道を進めとかいう価値観を植え付けずに、がんばれば誰でもできる、人のやっていないことをやれ、雨だれ岩をもうがつ、という価値観を子供のころから育てていくのです。

 そういう生き方の根本があって初めて、知識としての勉強もバランスよく取り組むということが必要になります。
 これまでは、知識だけが重視され、生き方が不問に付される環境に子供たちは置かれていました。それは、これまでの時代が、より豊かな社会を目指すという社会全体の共通の価値観に沿って動いていたからです。

 しかし、これからは違います。社会全体の共通の価値観は、これまでのような形ではありません。唯一あるとすれば、それは創造を大切にするという価値観です。
 これからは、創造する人間を育てるという大きな目標を念頭に置きながら、子供たちの教育を考えていく必要があるのです。



コメント欄

コメントフォーム
人工知能に負けない学力を育てる 森川林 20160617 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
まみむめ (スパム投稿を防ぐために五十音表の「まみむめ」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
教育論文化論(255) 
コメント1~10件
森リン大賞が示 森川林
作文力を上達させるコツは、褒めることでも直すことでもなく、書 12/13
記事 5398番
作文コンクール 森川林
 子供たちの教育で大事なのは、知識の詰め込みではなく、読書と 12/10
記事 5395番
読書と作文が子 森川林
 小学生時代は、勉強よりも読書。  中学生以上は、勉強と同 12/9
記事 5394番
子どもの文章力 森川林
今の受験は知識の詰め込みの勉強になっています。 考える問題 12/8
記事 5392番
作検研究。森リ 森川林
作文は、褒められても注意されても、そこに客観的な基準がなけれ 12/7
記事 5391番
「作文検定」「 森川林
 今は、AI社会の前夜。  昔は新聞やテレビが中心だった。 12/7
記事 5390番
AI時代に子ど 森川林
AI時代には、先生の役割は「教えること」ではなくなります。 12/6
記事 5389番
【合格速報】順 森川林
Rさん、合格おめでとう!! よくがんばりましたね。 受験 12/4
記事 5387番
森リン大賞9月 森川林
 従来の作文評価は、小学校低学年では「正しい表記ができている 11/9
記事 5382番
作文の学習で大 森川林
 「何でも自由に書いてごらん。いつでも褒めてあげるから」とい 11/7
記事 5381番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
3I/atla 森川林
日本にはかつて穏やかに何万年も続いた縄文文明があった。そのよ 12/12
森川林日記
Re: 11月 森川林
 これは、解き方の問題ではなく、読む力の問題です。  読解 12/5
国語読解掲示板
Re: ICレ 森川林
 ChatGPT、あまり文章うまくないなあ(笑)。  音声 12/5
森川林日記
ICレコーダと 森川林
AI時代に子どもが伸びる――全科学力クラスという新し 12/5
森川林日記
noteのペー 森川林
https://note.com/shine007 12/4
森川林日記
11月分 4  あういと
問題7と問題8が分かりません。 キーワードはわかるのですが 12/3
国語読解掲示板
Re: 森川林
 字がきれいだったのは、そのあとの日記の内容を見ると、弟が葛 11/30
国語読解掲示板
Re: 11月 森川林
 お返事遅れて失礼しました。  易しい国語問題は、「同じ言 11/30
国語読解掲示板
ともとも
小5の11月の読解検定のBの問題が誕生日だから字が綺麗だと思 11/28
国語読解掲示板
2025年11 森川林
△ムラサキシキブ ●作文検定スタート  学校 11/26
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン