ログイン ログアウト 登録
 製造業を超えて―日本の未来産業は何か Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
Onlineスクール言葉の森・サイト Onlineスクール言葉の森
記事 956番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2025/11/10
製造業を超えて―日本の未来産業は何か as/956.html
森川林 2010/07/08 05:20 


 世界経済は、大きな曲がり角に来ています。その状況を一言で言えば、返済が不可能なほどにふくらんだ借金をいったんハイパーインフレや徳政令で吹き飛ばさないかぎり、新しい時代は始まらないという状態になっているということです。

 しかし、その新しい時代の見通しは、もうついています。それは、人間の実際のニーズに裏打ちされた生産活動が行われる社会です。

 実際のニーズの根本には、食料やエネルギーという第一次産業があるのは当然ですが、それと同時に、工業やサービス業も、人間の実際のニーズに支えられていれば、未来の社会を支える産業になります。そうならない産業は、だれも必要性を感じていない軍需産業、本来少なくなるのが望ましい医療産業、あまったマネーを操作しているだけの金融産業などです。

 では、日本の未来の産業は何になるのでしょうか。

 日本は、これまで製造業立国を国是としてきました。しかし、その条件は大きく変化しつつあります。それは、中国の台頭、フロンティアの不在、電子化の流れなどが起きてきたからです。

 まず第一は、中国が新たな製造業の生産国として登場してきたことです。今はまだ、中国の製造業は、いくつかの弱点を持っています。それは、比較的安い人権費に支えられてきたこと、品質にまだ信頼性がないこと、高度な技術に関してはまだ日本より遅れていること、などです。しかし、実はこの弱点は、高度経済成長前の日本の製造業が、アメリカなどの製造業と比べて指摘されていたことと同じです。

 中国の製造業の有利な点は、国内やアフリカなどの途上国に巨大な市場を持っていること、現代の最新の設備で生産できる体制を整えていることです。

 したがって、日本の成長を支えてきた製造業の多くは、今後、中国に追いつき追い越されていくと思います。

 第二は、製造業の新しいフロンティアが乏しくなっていることです。自動車や家電製品などの耐久消費財は、日本ではほとんどの家庭に既に行きわたっているので、買い替えの需要しか生まれません。

 また、これらの耐久消費財の分野で製品の高度化を目指すといっても、その程度はわずかです。例えば、より高級なテレビ、よりハイグレードな自動車などというニーズは、経済を新たに牽引する力を持っていません。日本人が、製造業に対して魅力を感じるようなニーズが現代ではなくなっているのです。

 第三は、製造業に押し寄せている電子化の波です。

 例えば、自動車は、複雑な内燃機関を機械的に組み立てたものから、電気自動車のように電子化された部品を組み合わせたものになりつつあります。この電子化によって、日本の製造業が持っていた技術的な優位性は、今後次第に失われていくと考えられます。

 これまでの物づくりのノウハウは、主に身体的ノウハウとも言えるもので、手や目の感覚を頼りに、人間が物と対話をしながら進めていく面がありました。

 ところが電子化によって、この身体的ノウハウが、知識的ノウハウになってくると、人間と物との微妙な関わりは不要になり、ある組み合わせ方をすれば、だれが組み合わせても同じ動作をするというような物づくりが可能になります。

 以上のような三つの面における情勢の変化を考えると、日本の産業の未来は、自ずから明らかになります。

 第一は、中国が追いつけない技術を開発することです。第二は、製造業の新しいニーズを作り出すことです。第三は、電子化の前提となっている身体的知識を生かし電子化を先導することです。

 このときに日本の新しい産業に要求される技術は、知識的技術ではなく身体的技術ですが、それは、ある一つの分野に専門化した単発的な技術ではありません。新しい素材、新しい技術、新しいニーズと組み合わさった創造性のある身体的技術なのです。

 これをわかりやすい言葉で言えば、職人的な技能によって支えられた最先端の総合研究所のような技術と言うことができます。惑星探査機はやぶさや、宇宙帆船イカロスなどは、新ニーズ、新技術、新素材という条件に、日本独特の身体知を組み合わせた試みだと言ってもいいでしょう。

 日本の製造業は、ICを生かした組み立て産業になるのではなく、創造的な身体知を生かしてICの新しい設計図を提案するような研究開発的製造業になる必要があります。

 日本の未来の産業は、この研究開発産業であり、これが日本の外需を作り出します。従来の加工組立型の製造業は、次々と中国にシフトし、それに応じて日本は研究開発型の製造業になるというのが、日本と中国が共存する未来像です。

 このときに、日本の国内の需要を支えるものは、身体知を中核に、幅広く最先端の知識や技術やニーズを学ぶという学習や修行の産業です。

 古代ギリシアの主要な国内産業は、学問と芸術と政治でした。それと同じように、未来の日本の国内に向けた産業は学習と修行になり、国外に向けた産業は研究と開発になると考えられます。

 もちろん、かつての古い製造業は衰退しつつありますが、今はまだ主要な産業です。また、今後、世界のインフラ整備のために、日本の鉄道技術や土木技術が脚光を浴びる時代も来るでしょう。

 しかし、更にその先にある日本の未来像は、修行社会と研究産業であり、日本という国そのものがひとつの人類の巨大な総合研究所になる未来です。

 子供たちの勉強も、この展望のもとに進めていく必要があります。それは、教科の枠を超えた幅広い知識、多様な知識を統合する創造性、社会に貢献しようとする倫理観を伴った勉強になると思います。


日本語作文検定
英検、漢検、数検に続く第四の検定試験 日本語作文検定。
全国初、小1から高3までの系統的な作文指導と客観的評価。
 

コメント欄

コメントフォーム
製造業を超えて―日本の未来産業は何か 森川林 20100708 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
となにぬ (スパム投稿を防ぐために五十音表の「となにぬ」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
政治経済社会(63) 教育論文化論(255) 
コメント1~10件
森リン大賞9月 森川林
 従来の作文評価は、小学校低学年では「正しい表記ができている 11/9
記事 5382番
作文の学習で大 森川林
 「何でも自由に書いてごらん。いつでも褒めてあげるから」とい 11/7
記事 5381番
【合格速報】日 森川林
K.Aくん、おめでとう!! 小学生のときから、時どき脱線を 11/6
記事 5380番
ゆとり教育、フ 森川林
今はやりの探究学習も、生徒のレベルが高いところではうまく行く 10/20
記事 5372番
「この世」と「 匿名
温かいコメントをありがとうございます。 ゆめもあの世で読ん 8/21
記事 5359番
「この世」と「 かささぎ
ゆめちゃん 亡くなられたのですね。 ゆめ日記好きでした。お 8/18
記事 5359番
昔テレビで一億 森川林
最近の研究では、ゲームは頭をよくするということが言われていま 7/17
記事 2968番
昔テレビで一億 匿名
最新の医学研究でYouTubeを筆頭としたスマホコンテンツが 7/10
記事 2968番
掛け声だけでな 森川林
 あおさん、ありがとう。  読書会、確かにいいですね。 6/12
記事 5344番
掛け声だけでな あお
読書会っていいと思います。私は2年ほど前から地域の読書会に入 6/10
記事 5344番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
画像送信テスト 森川林
回回回 11/2
森川林日記
Thunder 森川林
https://www.thunderbird.net/ja 10/29
森川林日記
この忙しいとき 森川林
この忙しいときに、というかいつも忙しいけど、今は特にというと 10/28
森川林日記
もう二度とGm 森川林
 Gmailが突然、大量のPOP3は受信できないようにした。 10/28
森川林日記
2025年10 森川林
△ミズヒキグサ ●紙ベースの勉強が基本。デジタルの 10/22
森の掲示板
3I/Atla 森川林
それは、いい結果になるだろう。 10/2
森川林日記
SDGsとかL 森川林
SDGsとかLGBTQとかいう新しい言葉を使う人は、考えの浅 9/27
森川林日記
千葉県立千葉中 森川林
受験生に点数の差をつけるためだけのテスト。 横浜市立南 9/25
森川林日記
2025年9月 森川林
●家庭学習の習慣を  小学生のうちから家庭学習 9/22
森の掲示板
OCRのオシロ 森川林
今からOCRのオシロンの作り直し。 これまでgoogl 9/20
森川林日記

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン